text | ナノ

「ロングイヤーズ」

今年の合言葉は"うさぎの耳"。グリフィンドールの談話室の入り口である婦人を見て、思わず本物だと感動してしまった。
ぞろぞろとみんなで中へ入ると、オシャレで素敵な談話室にまた感動してしまう。ソファーや絨毯それにライトや置物まで、見るからにアンティークのような高そうな物ばかりだ。わくわくしながら色々と辺りを見渡していると、よく通る声が私の名前を呼んだ。

「もう、どこかに行っちゃうんだもの!びっくりしたじゃない」

「リリー!」

「でも同じ寮になれてすごく嬉しいわ!」

「一緒にグリフィンドールだね」

彼女とこうやって二人ではしゃいで、少しでも仲良くなれたことがとても嬉しい。もっともっと、物語の中の彼女じゃなくて、本当のリリーを知って行きたい。

「それより名前、あのやけに目立つ人達と知り合いなの?」

「やけに目立つって、」

「それは僕達のことかい?」

急に現れた彼に思わず変な声が出てしまいそうになるのを、慌てて自分の手で口元を押さえる。さっきまでは近くにはいなかったはずなのに、いつの間にか私達の会話を聞いていたようだ。

「もう、びっくりさせないでよ」

「ごめんごめん!」

謝りながらもジェームズは、全く悪気がないといった風に笑っている。リリー少し不愉快そうに眉を寄せていた。残念ながら彼女のほうは、ジェームズに対してあまり第一印象がよくないようだった。この二人がいずれは結婚することになるなんて、なんだか少し面白くて思わず笑ってしまいそうになる。そんなことを思っていると、いつの間にかシリウス達も近くに寄ってきていた。

「あ、そうだ。皆にも紹介するね!
コンパートメントが一緒だった子だよ」

「リリー・エヴァンズよ。よろしく」

彼女は先ほどまでの表情をサッと隠し、少し微笑みながら自分の名前を名乗る。そんな彼女に、他の四人も自己紹介を始めていった。ジェームズに至っては、キラキラとした瞳でリリーの事を見つめている。そういえば本当は、コンパートメントでジェームズ達とリリーは出会うはずだったのか。すっかり忘れていたが、そんなことにはならなかった。それはきっと、いや十中八九私という異物のせいだろう。

「君の瞳はとても綺麗だ!」

「…はい?」

「いや、もちろん瞳だけじゃないけどね!」

そういえばジェームズはどんなキッカケでリリーのことを好きになったのだろうか。今の彼の様子を見る限りでは、すぐにでも好きになりそうなかんじだ。彼が誰にでもこんな事を言うのは想像できない。半分一目惚れということだろうか。リリーを褒める彼をシリウス達は呆れたように眺めていた。

「あいつどうしたんだ?」

「ジェームズってプレイボーイなの?そうは見えないけど」

「それはないだろ」

「どちらかと言えばプレイボーイはシリウスだよね」

私の言葉にシリウスは不機嫌そうな顔をしながら、何か言いたげな表情をする。だって言わずもがな、シリウスは異性に好かれる。こんなにかっこいい顔をした男の子を、女の子がほおって置くはずがない。確実に彼は女を泣かせるプレイボーイ予備軍だ。まぁそんなことを言えば、彼は露骨に嫌な顔をするのだけれど。

「だってシリウスモテるじゃない」

「モテるからってプレイボーイとは限らないだろ?
それにあっちが寄ってくるんだ」

「モテるってところは否定しないんだ」

「事実だろ?」

今度は自身満々といったかんじで綺麗に笑う彼とは対象的に、私は呆れたようにため息をつく。同性がこんなことを聞いていたら確実に嫌われる。まぁこの顔で否定されても嫌味にしか聞こえないのだけれど。こういう彼の性格も、女の子が好きになる要因の一つだろう。

「名前、そろそろ部屋へ行きましょうよ」

「あ、うん。少し眠くなってきちゃった」

周りを見ればもうほとんど新入生はいないようだった。上級生達も次々に部屋へと階段を登っていく。ホグワーツまでの長旅に皆疲れているのだろう。名残りおしいような表情のジェームズを尻目に、かるい挨拶を交わして私達も部屋へと足を向けた。
自分の部屋を確認すると、どうやらリリーとは同じ部屋ではないらしい。隣同士ではあるのだが、そう上手くはいかないみたいだ。二人で残念だとひとしきり言葉を交わしたあと、明日の朝食を一緒に食べに行く約束をする。でも部屋が隣でよかった。

「じゃあまた明日ね、リリー」

「ええ、おやすみなさい」

「おやすみ」

お互い少し緊張した面持ちで別れると、自分の部屋のドアノブに手をかけた。一体どんな人が同室なのだろうかと、不安になってしまう。気が合う人がいい。こんなところまで気を使いたくないのが本音だ。
静かにドアを開けると、まだ明かりがついていた。一人の女の子がベッドに座っている。どうやら三人部屋らしい。ベッドに座って荷物を片付けていた女の子は私に気が付くと、笑顔で話し掛けてくれた。

「ハーイ、名前ちゃんよね?」

「うん。名前・フラールです。名前でいいよ」

「私はマリア・ロウェン。私もマリアって呼んでね!」

「うん、よろしくね」

「こちらこそ!
今もう一人の子はバスルームにいるの。勝手にベッドも決めちゃってごめんね」

「いいの、私が遅かったから」

マリアはとても可愛らしい普通の女の子だった。もう一人も気になるが、どうやらこの部屋は当たりのようだ。少し安心しながら、端にあった自分の荷物を空いているベッドに運ぶ。ローブを脱いで、私も彼女達と同じように荷物を整理しなければ。せっせと荷物を整理していると、バスルームの扉が開き、金髪の髪を濡らした女の子が出てきた。彼女がもう一人のルームメイト。

「ハーイ、名前・フラールです。よろしくね」

「ああ、もう一人の子ね!
私はエレナ・ブラウンよ。よろしくね」

もう一人のルームメイトも良い子そうな子だった。エレナは綺麗な金髪の髪をした、大人っぽい女の子だ。対象的にマリアはうすいブラウンの髪の毛に、どちらかといえば可愛らしい顔立ちをしている。
三人揃ったところで、かるく自分の自己紹介をした。エレナは魔女とマグルのハーフ。マリアの両親は両方魔法使いだが、純血ではないらしい。他にも住んでいたところや、自分の好きな物など少したわいも無い会話をして、そのあとは各自自由に過ごしていた。私もシャワーを浴びて、今日は早めに寝たい。初めてのことだらけでもうヘトヘトだった。
明日から始まる授業に胸を踊らせながら、バスルームへと向かう。魔法使いが学ぶ授業とはどんなものなのだろうか。原作が少しずつ変わってしまっていることは否定できない。怖くないわけではない。本当はいけないことなのだ。でも、自分が来たかった世界にやっと来れた。それならば楽しまなくては。少しの不安を胸に、私は精一杯ホグワーツを楽しもうと心に決めたのだった。