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「いろいろと決めたいんですけど…、高橋さんお願いできますか?」

そう言われた彼女は、何かの紙を手に黒板の前へ出る。今日は、文化祭について話さなければいけないLHRの二回目だ。どうやら私達のクラスは、第一希望である演劇に決まってしまったらしい。おそらくすんなりと決まってしまったのだろう。演劇なんて私達にできるのだろか。面倒なのと不安なのと、とにかく文化祭が憂鬱になってしまった。

「まずは演目を決めたいと思います。
手に入る台本の中から、候補をいくつか選ばせてもらいました。」

彼女は手元の紙を見ながら、スラスラと黒板にいくつかの物語の題名を書いていく。それはどれも皆が知っているようなものばかりだった。

「この三つの中から決めたいと思ってます!」

その三つとは、まず一つ目はロミオとジュリエット。これも演劇としてはとても有名だが、三つの中でも演じるのは一番難しそうだ。二つ目はシンデレラ。ディズニー映画の一つだが、これは割と簡単そうで馴染みもある内容だろう。そして最後に白雪姫。これもシンデレラと同様で馴染みもあり、あまり難しくなさそうな題材だ。正直言えば演目なんてどうでもいい。どうせ私は大した役はやらないのだから。

「皆に選んでもらいんたいんだけど、実はこの中でもやりたいものが一つあるんです。
他の物がいいならそれでもいいんだけど、白雪姫ってどうかな?」

どうやら高橋さんの頭の中では、もういろいろと決まっているらしい。この前からやけに気合が入っていると思っていた。それにしても白雪姫か。まぁ、ロミオとジュリエットではなくてよかった。あんな難しい物ができるとは思わない。

「このクラスに、主役の二人にピッタリな子がいるの!
だからこのクラスでずっと白雪姫をやりかたかったんです。
ごめんなさい、勝手にいろいろと決めちゃって…」

白雪姫の主役二人といえば、やはりお姫様である白雪姫と王子様だろうか。王子様はなんとなく分かる気がする。私の予想だけれど、それはきっと二口くんではないだろうか。だって私も彼を見た時に、王子様みたいだなんて思ってしまったから。

「王子様って二口くんかな」

「…ちょっと思った」

「さっすが、分かってるね」

彼もそれを自覚していたらしい。流石である。まぁこれだけ顔がよければ、そう思うのも仕方がないか。しかし、これはちょっとした嫌味だ。

「別に俺、ナルシストとかじゃないからね」

「知ってる。まぁ二口くんはかっこいいから仕方ないよ」

「そう言ってるけど、苗字こそ白雪姫っぽいからね」

「…はい?」

二口くんがいきなり爆弾を落としてきた。私が白雪姫?ありえない。白雪姫の要素といったら、少し人より白い肌くらいだ。変なことを言った彼に、きっと私は拍子抜けしたような顔を向けているだろう。彼は面白そうに笑っている。

「肌白いし、髪の毛だって黒くて綺麗じゃん?染めてないしさ」

「私がそんな大役やるわけないでしょ?」

「いーや、白雪姫は苗字だと思うね」

「ない、ぜーったいない」

そんな面倒なことしたくない。白雪姫だなんて、主役だなんて、絶対にありえない。なにより面倒くさいし、それに私には不釣り合いだ。私より可愛い子なんてたくさんいる。

「その二人なんだけど、分かってると思うけど白雪姫候補と王子様候補です!
とりあえず私の考えた物だから嫌なら嫌で違うのにするし、発表だけしてもいい?」

高橋さんの言葉に、案外クラスの皆は乗り気だ。誰だ誰だとわくわくしているのが、見ているだけで分かる。考えるのも大変だし、どうせ演劇部の部長に全部任せる気なのだろうか。

「えーっと、王子様は二口堅治君ってどうかな?」

やっぱり、王子様は二口くんだ。隣の彼を見れば、呆れたようにため息をついていた。クラスの皆も、やっぱりと納得するような表情をしている。このクラスに、二口くんを差し置いて王子様ができる子なんていないだろう。さぁ、そして次は白雪姫。

「白雪姫は、苗字名前ちゃんがいいと思うんだけど、どうかな?」

その言葉に、自分の耳を疑う。私が白雪姫?いやいや、ありえないでしょう。何かの間違えだ。いや、もしかしたらドッキリ?

「……嘘、でしょ?」

隣の彼は満足そうに笑っていた。