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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「よろしく」

彼をこんなに間近で見たのは初めてかもしれない。その顔はとても整っていて、どこかの王子様みたいだなんて、柄にもなくそう思ってしまった。サラサラなブラウンの髪の毛に、女の子のように小さい顔。長い睫毛の瞳に、程よく鍛えられた身体と高い身長は女の子好みだろう。そんな彼は中学三年にして初めて同じクラスになり、今回の席替えで隣の席になった二口堅治くんだ。




「そろそろ文化祭の出し物を決めなきゃいけない。実行委員、頼むぞー」

LHRの時間に担任にそう言われた実行委員の二人は、何枚かの書類を手に前へと出た。文化祭は夏休み明けの9月。7月の放課後から準備が始まり、夏休みを又げばすぐに文化祭がやってくる。夏休みには何回か学校に来なくてはいけない。それは私達受験生にとっては、かなり面倒なことだ。でも中学生最後の文化祭。この学校の1番大きな行事には、やはり受験生とはいえ気合が入る。楽しそうにはしゃぐクラスの皆を見て、先生も嬉しそうだ。

「では、出し物を決めます。三年生なので基本的には第一志望が通ると思いますが、飲食店がやっぱり今年も人気になると思います。
何かやりたい物があったら手を上げて言ってください。」

文化祭と言えば喫茶店などの飲食店、あとはお化け屋敷などがやはり人気になる。出し物に関しては、最後なのでなるべく三年の意見は通るようになっている。しかし三年の全クラスが、飲食店やお化け屋敷などをやるわけにはいかない。一、二年生だってやりたいだろうし、数に限りがあるからだ。お化け屋敷や迷路などの展示系は結構準備が大変だし、無難に喫茶店がいいかもしれない。そういえば、確か去年はアイスを売ったなぁ。まだまだ暑かったから大盛況で大変だったけれど、楽しかったし良い思い出だ。

「苗字は何かやりたいのある?」

そんな事を思っていると、ふいに隣から私を呼ぶ声がした。隣に視線を合わせれば、整った顔の二口くんと目が合う。

「無難に喫茶店とか?」

「あーわかる。当日ちょっと大変そうだけど、準備は楽だよなぁ」

「そうそう。お化け屋敷とか準備大変そうだしね」

少しありがちでつまらないかも知れないけれど、何かテーマを決めてやったりすれば面白いかもしれない。テーマって言っても、それが中々思いつかないのだが。

「他には無いですか?じゃあ、この中から多数決で決めたいと思います」

いつ間にか黒板にはいくつかの候補が書かれていた。メイド執事喫茶や、コスプレ喫茶、普通の喫茶店にお化け屋敷に迷路、クレープ屋さんなどのお菓子系など様々だ。やはり飲食系が大半だった。

「ちょっと待って、もう一ついい?」

このよく通る高めの声は、確か演劇部の部長の高橋さんだ。明るくて頼りになる、そんな女子生徒である。その声にクラスみんなの視線が集まる。

「やっぱり今年も飲食店が中心になると思うの。確かに楽しいけど、私達もそれと同じじゃつまらなくない?」

その発言にクラスの皆も納得したような、どこか戸惑ったような表情を浮かべていた。確かにありきたりでつまらないかもしれないけれど、どうせ文化祭だし自分達楽しければそれで良い気がする。高橋さんは一度皆の顔を確認すると、真剣な表情で話を続けた。

「せっかく最後の文化祭だし、準備からみんなで、濃く何かを作りあげたいの。そんなことめんどくさいなって思う人もいるかもしれないけど…。そこで提案なんだけど、みんなで演劇をしない?」

その提案にクラスが少しざわついた。演劇。確かに思いつかなかったわけじゃない。演劇も文化祭の定番だ。でも衣装から大道具、そして演技の練習。それは相当大変なものだろうし、面倒でやりたくない人も多いだろう。案の定、隣の彼も面倒くさそうに顔をしかめていた。二口くんは誰からみてもかっこいいし、演劇となればメインの役になるだろうから大変そうだ。私は女子Aとか、あとは裏方とかそんなところ。

「めんどくせー」

「ちょっと、ね…」

二口くんと小さい声で苦笑いしながらそんな会話をして、黒板に新しく書かれた"演劇"という文字を見る。皆も面倒くさい気持ちは同じだろうし、無難に飲食店系のどれに決まるだろう。どうせ演劇にはならないはず。適当に喫茶店にでも手を挙げておこう。実行委員も大変だなぁ、と決を取る二人を見てそんなしょうもないことを思った。