text | ナノ

ホグワーツ特急から降りて少し歩き上級生達と別れると、目の前にはすぐに映画で見たようなあの光景があった。湖らしきものが広がり、いくつものボートが浮かんでいる。私はリリーとセブルス、そして近くにいたブラウンの髪の男の子と一緒にボートに乗った。
ゆらゆらとボートに揺られていると、次第に大きな城のような巨大な建物が見えてくる。あれがホグワーツ城。大きくて、とても立派だ。月明かりとたくさんのオレンジ色の小さな光に照らされたホグワーツ城は、異様な不気味さを醸し出していた。

「…あれがホグワーツなの?」

「たぶんね」

周りからも小さな感嘆の声が聞こえてくる。やはり自分の目で見るというのは、本の文字や画面を通して見るのとは全く違う。ホグワーツ城はとても美しい。

「名前!!」

足元に気を付けながらボートから降りていると、急に大きな声で名前を呼ばれた。それはいつも耳にしている馴染みのある声色で、思わず安心してしまう。

「リリー、セブルス、またあとでね。…同じ寮になれるといいね」

少し困惑した表情の二人にそれだけ伝えて、私はその場を離れる。リリーにはきっとまたすぐに会えるだろう。セブルスはおそらくすんなりとは会えないかもしれないが。

「名前お前、どこにいたんだよ?…探したんだぞ」

「ごめん。だってシリウスが見当たらなかったんだもん」

「ホグワーツに来ないのかと思っちまったじゃねーか。…ったく」

「そんなわけないでしょ?あんなに楽しみにしてたのに!」

かなり不貞腐れた様子のシリウスに、離さないといわんばかりに手を掴まれた。制服を着たシリウスはなんだか新鮮だ。綺麗な黒髪と、幼いながらも分かる端正な顔立ちで、早速女の子達の気を引いている。シリウスはどんどん男らしく、かっこよくなっていくのだ。幼いときの可愛らしいシリウスの面影がなくなっていくと思と、かなり寂しい。

「でも会えたんだからよかったでしょ?ほら機嫌直して!」

「…はいはい、わかったよ」

ふとシリウスの隣を見ると、知らない顔の男の子達が驚いたようにこちらを見ていた。少し癖のついた黒髪に眼鏡をかけた男の子、うすいブラウンの髪にすらっとした体型の男の子、可愛らしい顔立ちをした少し小さい男の子。おそらく彼らが、あの…。

「シリウスのガールフレンド?」

「…ジェームズ」

「もしかして、探してた子っていうのは彼女のことかい!?」

ジェームズと呼ばれた男の子は、興味心身にからかうようにそんなことを言っている。なんというか、テンションが高い。第一印象はそんなかんじだ。

「僕たちにも紹介してほしいな。ね、ピーター?」

「う、うん…!…えっと、その子も困ってるみたいだよ…?」

ピーターと呼ばれた男の子は、とても可愛らしかった。母性本能をくすぐるような、そんなものを持っている気がする。もう一人は、この歳にしては落ち着いている、優しそうな好青年だ。

「あー?……そうだな」

「シリウスのお友達?」

「ホグワーツ特急で会ったんだ。それで仲良くなった」

シリウスはなんだか面倒くさそうな顔をしている。まぁ確かに、個性的というかなんというか。そんなシリウスに少し苦笑いをして、私は彼らのほうを見た。

「えーと、シリウスの幼馴染の名前です。よろしくね!」

「僕はジェームズ・ポッター。
幼馴染なんだね!いいなぁ、シリウスが羨ましいよ!」

「リーマス・ルーピン。よかったらリーマスって呼んでね」

「…ぼ、ぼくはピーター・ペティグリュー。…よろしくね」

なんとなくファミリーネームは言わないほうがいいような気がして(シリウスも言っていないだろうから)、そのまま名前だけを伝えた。これからの彼らのことを思うと、すごく胸が締め付けられる。とくにリーマスは、何か力になりたいとこの世界に来たときから思っていたことの一つだ。

「名前はどこの寮がいいんだい?」

「私の両親がね、レイブンクローとスリザリンなの。
だからどっちかだと思うの」

「スリザリン!?……君にスリザリンは似合わないと思うけどね」

「そうかな?…でもやっぱりグリフィンドールがいいな」

私がグリフィンドールと言うと、ジェームズは目に見えて嬉しそうに目を輝かせた。彼は古典的なグリフィンドールタイプだ。

「やっぱりグリフィンドールが一番さ!
みんなでグリフィンドールに入ろうじゃないか!」

この4人はグリフィンドールに決定だとしても、私はどうだろうか?全くグリフィンドールっぽくない気がする。どちらかというと、手段を選ばないスリザリンだろうか。スリザリンは狡猾や、ずる賢いとよく言われるが、仲間を誰よりも大切に思っているかんじがするし、頭も良くキレるとても良い寮だと思う。私は昔からそんなスリザリンが好きだった。

「ーーようこそホグワーツへ」

シリウス達と寮について話していると、キビキビとしたあの声が通った。声のした方を見れば、映画よりだいぶ若いマグゴナガル教授の姿があった。うわぁ、本物だ。あの本物のマクゴナガル先生だ。嬉しさと感動で涙が出そうになるのをグッと堪える。
先ほどまでシリウスと繋いでいた手はいつの間にか離れ、シリウスも私も皆、真剣にマクゴナガル先生の話に耳を傾ける。先生の登場で、いよいよ私も緊張してきてしまった。本物のホグワーツ、組み分け帽子。そしてアルバス・ダンブルドアに会うということ。不安と恐怖で胸が押しつぶされそうになる。
本当に私にできるのだろうか。私はグリフィンドールに入れるのだろうか。もしグリフィンドールでなければ、最初から躓くことになるのだが。ここは幸先の良いスタートを切りたい。だってグリフィンドールに組み分けされたほうが、いろいろと好都合なのだ。ダンブルドアは言わずもがな、グリフィンドール贔屓だ。トム・リドルの件もあって、スリザリンや危険な書物などを読んでいたりする生徒には敏感になっているだろうし、なんといっても物語の主要人物と関わるとなればグリフィンドールが一番だ。おそらくレギュラスと同じ寮にはなれない。それは非常に残念だし、不安な要素の一つでもある。シリウスのいない、誰も頼る人のいないブラック家にいるレギュラスも心配だ。明日にでも手紙を出そうと、マクゴナガル先生の話を聞きながらそんなことを考えていた。

「では準備ができました。ーー来なさい」

その声で目の前の扉が静かに開く。それと同時に眩い、明るい光が私達を照らしていく。突然の明るさに目が慣れていなくて、とにかく眩しい。目を細めながらだんだんと中の、大広間の光景が見えてきた。上級生達の大歓声の中、いよいよ私達の組み分けの儀式が始まった。