text | ナノ

「……届いた」

あれから五年の月日が流れ、私もやっと11歳になった。今か今かと例の手紙を待っていたのだけれども中々届かない。もしや私はホグワーツに行けないのだろうかと不安になっていたとき、部屋の窓を叩く梟がやっと手紙を届けてくれた。とりあえずホグワーツへの手紙が届いたことに一安心をする。私がホグワーツに行けないとなれば、これからやろうとしていることにだいぶ支障が出てしまうのだから。

「お父さん、お母さん。届いたよ」

美味しそうな匂いが漂うリビングの大きな机に腰掛けていた二人に、ひらひらと手紙を見せながら私もいつもの席に着く。二人とも嬉しそうな、安心したような笑顔を浮かべてくれた。

「ついに名前もホグワーツか」

「本当に早いわね〜」

「ホグワーツは楽しいぞ」

暖かい朝食を食べながら、二人からホグワーツの話を聞く。その顔は本当に嬉しそうで、なんだかむず痒い。
やっと、やっとだ。私はずっとこの時を待っていたんだ。恐らく全てであろう記憶を手に入れてから約五年、私は少しずつ準備を進めていた。両親が頼んだ家庭教師に加え、独学でたくさんの魔法や歴史を学んだ。生まれた環境が良かった事もあり、家にはかなり古い本も収納されている大きな書斎もあったし、優秀な家庭教師もつけてもらった。純血ということで、小さい時からたくさんの魔法に触れてきたし、なんといっても私には母親の家系の血が強く流れているようだった。一年程前に両親から聞かされた私の魔力と、特別な力。詳しい能力までは、まだ私が幼いという理不尽な理由で教えてはもらえなかったが、なんといっても私は普通の子供ではない。子供が読めない難しい本だって、ある程度は読むことができる。私は教えてもらえないかわりに、自分で調べることにしたのだ。この特別な能力を。

「明日はお母さんとダイアゴン横丁に行ってくるといいよ。買うものがたくさんあるだろうからね」

「そうね、そうしましょう!」

「うん、楽しみにしてるね」

私は子供らしく二人に笑いかけると、書斎へと向かった。まだまだ私には勉強しなければならないことがたくさんある。苗字の力だって、まだあまり分かっていない。もしかしたら家の書斎にはそれに関する本があまり無いのかもしれない。そうしたら、あとはノクターン横丁だろうか。それかホグワーツの図書室か。ホグワーツならたくさんの本がありそうだ。とりあえずホグワーツに行く前までに、できるだけ多くの事を学ばなければならない。あのヴォルデモートを倒さなければいけないのだから。



「名前、落ち着いたら手紙を飛ばしてくれよ」

「身体に気を付けてね」

先日オリバンダーの店で手に入れた私の杖を、ポケットの中でかるく握る。カルミアの木に、杖芯は不死鳥の尾羽、28センチ。少し硬めで、しなやか、変身術に適しているものだった。
カルミアの意味は『大きな希望』、そして『野心的』。なんとも私にピッタリではないかと嬉しくなる。だがしかし神様の悪戯か、はたまたただの偶然か、ハリーやヴォルデモートと杖芯が同じだった。なんとも洒落ているではないか。これが私の最大の武器になるもの。私のための、私を選んでくれた杖。大事に、大切にしなければ。そして使いこなせるように。買ってすぐに家でできそうな魔法を唱えてみたが、全く問題はなかった。もっとたくさんの、大きな魔法も使ってみたいが、それは家ではできない。

「お父さん、お母さん、いってきます」

少し寂しそうな父親と、嬉しそうに笑う母親に見送られながら、私は特急へと乗り込んだ。ホグワーツ特急は外装も内装も、日本では見たことがないものでとても美しい。左手に握られている鞄は、魔法のおかげでちっとも重くない。私はあの二人を探そうと、おそらく一緒に座っているであろうコンパートメントを探した。

「……いた」

黒く男の子にしては長めの髪の毛、そしてその前に座る燃えるような赤毛に美しいグリーンの瞳。私はその二人を見て小さく笑うと、できるだけ愛想の良い笑顔でコンパートメントの扉を叩いた。やっと、やっと始まった。この長い長い戦いが。