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名前はとても驚いていた。それは家に帰っても変わらない。電車に乗ってからの記憶は曖昧で、いつのまにか自宅へと帰宅をしていたのだ。夕飯を食べながら気の抜けたような顔をしている娘を見て、家族はひどく心配をしていた。
今日は久しぶりに放課後に友達の家へ遊びに行った。学校から数駅先にあるその子の家へ、友達と2人で。とても楽しかった筈なのに、彼女はそんな事など既に忘れてしまっている。

「…どうして?」

独り言を呟いても、当然それに返事は無くて。受け入れがたい事実がそこにあるだけだった。
赤葦京治という人物は、名前が作り出した虚像だった。それがこれから先、変わる事はない。絶対にだ。数時間前まではそう思っていた筈だ。なのに、彼は私を見てひどく驚いていた。まるで、私を知っているかのように。そして見覚えのある制服は、梟谷学園のものだ。

翌朝、前日の出来事が未だに信じられない名前は友達へある質問をすることにした。彼女は中学時代バレーボール部に所属し、今でもよくバレーの試合を観に行くと言っていた筈だ。

「突然どうしたの?」

「実は、もしかしたら知り合いがいるかもしれなくて…」

「梟谷に?」

「そう、梟谷のバレー部に」

「梟谷って言ったら名前も知ってるかもしれないけど、超強豪校だよ。全国大会に何度も出場してるし」

「ちょっと聞いたことある」

バレーに疎い名前も聞いたことがあった。なにせ、学校が近いのだ。こちらへも情報は容易く入ってくる。

「私、学校も近いし、梟谷をちょっと贔屓にしてるとこあるんだ。有名な選手なら名前分かるよ?」

確か彼はセッターと言っていたか。そして副主将とも。レギュラーかどうかは分からないけれども。名前はあの夢で話した事を必死に思い出していた。

「確かね、セッターやってるって…」

「セッター?…ああ、私たちとおなじ2年だね。確か名前は、"赤葦京治"くん。」

鈍器で頭を殴られたような衝撃。たまにそう表現する事があるだろう。それを今、名前は実際に体験していた。
昨日ホームで見かけた彼は、間違いなく赤葦京治なのだ。そして恐らく、彼は私の知っている赤葦京治なのだ。
だって。なんで。どうして。そんな言葉ばかりが頭の中を、ぐるぐると回っていた。
夢の中だけで会える人。赤葦京治という人物は、そんな人間だったから。

待ち遠しかった放課後、名前は教室を飛び出して駅へと向かっていた。自分の目で確かめずにはいられなかったのだ。部活が終わるのは何時だろう。そんな事を考えながら、昨日と同じ電車に飛び乗る。
ずっと考えていた事があった。もし彼に、本当に会えるならば。それがもうすぐ、現実になろうとしていた。