少しの間ベッドに潜って、襲ってくる睡魔に対抗する様に熱いシャワーを浴びた。そして、エレナとマリアと共に朝食を食べていると、やってきたリリーに昨日寮へ帰って来なかった事を叱られる。どうやら談話室で私を待っていてくれた様だった。そんなリリーの優しさに、本当に申し訳なく思いながら必死に謝ると、彼女は気を付ける様にと注意をして許してくれた。リリーから寮へ戻って来た時間を聞かれたのだが、正直に答える事も出来ずに曖昧に誤魔化す事しか出来なかった。
いつも朝から騒がしい悪戯仕掛人(朝から騒がしいのはジェームズだけなのだか)が大広間へと姿を現さないのは、恐らく四人とも眠っているのだろう。談話室で待っていた三人も、もちろんリーマスも昨夜は碌に眠る事が出来ていなかっただろうから。今日の午前中の授業は欠席だろうかと、カボチャジュースを飲みながら考える。全く、真面目な私を褒めてほしいくらいだ。
「名前!もう逃がさないよ!」
昼食を終え、午後の授業も終えた私を待っていたのは、それはもう厄介としか言い様のない尋問だった。グリフィンドールの談話室に着いた途端、ジェームズに腕を引っ張られ、連れて来られたのは彼らの自室。男子寮へ女子は問題無く入る事が出来ると聞いていたのだが、どうやらそれは本当の事らしい。
「四人とも、授業をサボるなんてダメでしょー」
「いやぁ、昨夜は眠れなかったから」
「今までずっと寝てたの?それはそれは羨ましい限りね」
ジェームズとシリウスが授業をサボるという事は日常茶飯事な訳だが、まる一日授業の出ないというのは早々無い事である。しかも四人が揃ってとなると、後でマクゴナガル先生も黙ってはいないだろう。
「そんな事はどうでもいいじゃないか!僕は名前に聞きたい事が山ほどあるんだよ!」
「今朝逃げ出したんだから、もう逃がさないからな」
私は彼らの言葉に了承の意込めて、一度肩を竦めると、部屋の真ん中に敷いてある絨毯の上へと腰を下ろす。すると彼らも同じ様に、円を描く様に座ってくれた。私を挟む様に座ったのは、もちろんシリウスとジェームズの二人だ。
「何でも答えるって言ったもんね。好きに質問してください」
その言葉にシリウスとジェームズは顔を見合わせる。そして、最初に口を開いたのはシリウスのほうだった。
「リーマスの事、いつから気づいてたんだ?」
「僕達は君がリーマスの事を知ってると思って、昨日一緒に呼んだんだ。
満月が近くなると心配そうにリーマスの事を見ていたり話しかけていたから、恐らく名前は知っているんだろうって」
「本当によく見てるね。気付いたのは1年の終わりだよ。リーマスに打ち明けたのはつい最近」
「そんなに前から…」
私の丁度目の前にいるピーターは驚いた様に声を上げた。本で読んだから知っていたなんて言えるはずもなく、私は慣れた様に嘘を吐く。
「最近異様に名前とリーマスが仲が良かったのはそれが原因か…」
「異様って、そんな事ないでしょ」
「シリウスはそればっかり気にしてたんだから」
「ジェームズは余計な事ばっかり言うな!」
同室の二人にも言われていた事だが、私とリーマスはそんなに仲が良さそうにしていただろうか。そう見えるなら嬉しい事なのだが、リーマスに迷惑を掛けていないかと少し不安になってしまう。
「名前…、僕はその、君に謝らなくちゃいけない事があるんだ」
そんな風に考えていれば、今まで黙っていたリーマスが口を開いたかと思うと、急にそんな事を言いだすものだから、何事かと戸惑う様に彼に視線を向けてしまう。その表情は本当に申し訳なさそうで、でも何処かすがすがしい顔をしていて、今朝の四人の話し合いはとても良い物だったという事が窺えた。
「名前がアニメーガスだって、三人に言ってしまったんだ」
「そう!そうだよ!僕はその事について一番知りたかったんだ!」
さらに上がったジェームズのテンションに、どうしても顔を顰める事を止められなかった。私がアニメーガスだという事を彼らに隠し通せるとは思ってもいないし、隠そうとは思っていなかったのだけれど、目の前のジェームズを見ると隠しておいた方が良かったと思うのは、もう仕方のない事だと思う。
それから、リーマスは今朝の事を事細かに教えてくれた。それはもう、嬉しそうな表情で。私が自室へと帰ってから、彼らもこの部屋へと戻り、そこでリマースは三人の想いを聞いたのだという。人狼だからといって、リーマスが友達だという事は変わらない、僕達もリーマスの為に何かをしたい。僕らが君に怒っていたのは、僕らに人狼だという事を隠していたからだと。余りにも必死にそんな事をいうものだから、僕は女々しく泣いてしまったよと、彼は笑いながら話してくれた。
「それで、三人もアニメーガスになりたいと」
「もちろんさ!僕達もアニメーガスになって、満月の日のリーマスに少しでも楽しんでもらいたいんだ」
「私が言うのもあ説得力無いけど本当に危険だよ?」
「リーマスに散々言われたさ。それに、名前にその言葉、そっくりそのまま返すぜ」
「君が言っても、本当に全く説得力がないよ!」
散々皆から、お前が言うなよ!という視線と言葉を投げかけられれば、これ以上私が彼らを止める事なんて出来るはずもなく。元々そんななつもりは無かったけれども、彼らが心配なのは本当の気持ちだ。
「…それで、私にアニメーガスになるのを手伝ってほしいって事?」
「話が早くて助かるね」
「名前はどのくらいで、アニメーガスになれたの?」
ピーターの質問に少しだけ考えを巡らす。確か、私がアニメーガスの習得に取り掛かったのは、ホグワーツの入学前だっただろうか。
「2年ちょっとかな」
「はぁ!?じゃあホグワーツに入る前からって事じゃねーか」
「うん、ホグワーツに入る1年前からだね」
「俺なんも聞いてないんだけど」
「ごめんごめん、レギュラスにも言ってないよ?というか誰にも言ってない」
「隠し事すんなって言っただろ」
「シリウス、ごめんって」
「ちょっと!二人の痴話喧嘩は後にして!
しかし君は、本当に頭がいいんだね」
「主席のジェームズに言われたくない」
「実技は僕より出来るくせに」
私に迫ってくるシリウスを見かねたジェームズが、私達を離す様にシリウスの方を押しのけた。それに感謝しつつも、後でもう一度シリウスに謝らなければいけいないと思案する。
「じゃあ、名前!触りの部分だけでもいいから、アニメーガスについて教えてよ」
「それなら良い本があるから部屋から取ってくるね」
「助かる!」
彼らがアニメーガスになる事が出来るのは約三年後だろうか。それを少しでも早める事が出来たら、リーマスの辛い思い出が少しだけ減るかもしれない。1日でも早く彼らがアニメーガスになれる様に、私に出来る事は何でもしよう。そう、今一度自分に固く誓った。