夕食を食べ終えシャワーで一日の疲れを癒して部屋に戻ると、ベッドの上ではしゃいでいるルームメイト達が目に入った。はしゃいでいるのはマリアであるが、その隣でエレナも彼女の話に付き合う様に笑顔を向けている。そんなエレナもいつもよりテンションが高く楽しそうだ。
「二人ともどうしたの?」
肩に掛けたふわふわのタオルで、濡れた髪を拭きながら彼女等に声を掛ければ、キラキラとしたマリアの瞳と目が合う。どうしたものかと首を傾げると、彼女を何かを聞きたそうな表情で口を開いた。
「ねぇ、名前!」
「え、なに…?」
いつもとは違う彼女の迫力に圧倒されてしまい、私は驚いた様に返事を返す。そんな私にお構いなく、彼女を興奮した状態で話を続けた。
「リーマスとはどういう関係なの!?」
突拍子もないその言葉に自分の頭が追い付かない。きっと今の私の顔はポカンとだらしがない顔をしていることだろう。
「私も気になる」
「でしょう?だって最近、名前とリーマスがよく一緒にいるのを見掛けるし、何だか前と雰囲気が違うの!」
珍しくいつも冷静なエレナもそれに同調をしてきて、私は二人から何だか責められている様な気さえしてきた。
「雰囲気って?」
「二人が一緒にいる空気だよ!なんていうのかなぁ、こうふわふわしているというか、暖かいというか…」
「ちょっと待って、ぜんぜんっ分かんない!」
「なんでよ、分かるでしょ?エレナは分かるよね?」
「うん、なんとなくね。何だか、二人には特別な空気がある気がするな」
確かに、リーマスに私がアニメーガスだという事を知られ、リーマスが狼男だという事実を二人で共有する様になり、前よりも彼と近づく事が出来たとは思っている。話す機会が多くなったのは事実だが、それでも私達は1年生の頃からそれなりに仲は良かった。他人から見て、私達の関係にさして以前と変わったところは無いはずだ。
「もともと私とリーマスはそれなりに仲がよかったでしょ?」
「そうだけど、そうじゃないの!」
「えー?」
「前とは違って、こう甘い雰囲気があるんだよ!」
「甘い雰囲気?」
甘さなんて欠片もないだろうに。どうしてそうなった。
「そう!恋だよ、恋!」
思わずため息を吐きたくなるのを、グッと堪える。ここでため息なんてものを吐いたら、後で彼女になんて言われるか。女の子が集まれば恋バナをしたくなるのは当然の事だが、その当事者が自分となると面白いわけがない。他人の恋愛を話しているのが一番楽しいのは間違いないのだから。
「私とリーマスはそんな関係じゃないよ?甘さも全くないからね」
「名前はそう思っててもさ、リーマスは分からないでしょ?」
「リーマスが私の事を好きになるわけがないでしょう?」
マリアは私を見て、自分の頬を少し膨らませると、自信満々に口を開いた。
「絶対、いつか二人には何かがあるからね!」
もし彼女の言う”何か”があったとしても、それは恋だのといった甘いものではないだろう。
「はいはい、分かったよ」
「もー!何か進展があったら教えてよね!」
「あっ、私も知りたいからよろしく」
「エレナまでどうしたの…。まぁ、もし進展があったらね」
そんな事、無いだろうけれど。私はやっとこの話題が収まった事に、ホッと胸をなでおろした。
:
「おい、名前!…どうした?」
翌朝、朝食の席で隣に座るシリウスに名前を呼ばれハッとする。右斜め前に座るリーマスを見て、昨日の事を思い出して考え事をしていた様だ。これもマリア達のせいだ、と昨日の彼女等を恨んでしまう。
「ごめん、少しボーっとしてた。私に話しかけてた?」
「何度呼んでも返事がなかったからな」
「そうなの?ごめんね」
「いや、」
「それで、どうしたの?」
「…なんでもない」
「シリウス?」
少しムッとした様子の彼を不思議に思いながらも、手に持っていたままだったトーストをお皿の上に置いて、シリススの顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「なんでもない」
そう言ったきり黙ってしまった、不機嫌そうな顔をする彼に申し訳なさが残る。しかしシリウスはいつもそんな事で不機嫌になったりはしない。もしかしたら私が何か悪い事をしてしまったのだろうか。そんな私達を面白そうに見ているジェームズに、自分とシリウスの事で頭がいっぱいだったこの時の私は、気が付く事が出来なかった。
そして私が知る、本で読んだ”あの日”がもうすぐやって来るのだ。