text | ナノ

”今年のクリスマスは皆でお祝いをしましょう!”
そうお母さんから手紙が届いたのは、クリスマス休暇に入る1週間前の事だった。挨拶もそこそこに、そう切り出された手紙を読んでいくと、”皆”と言うのが誰なのかすぐに分かった。目の前で朝食を食べている彼を見ると、同じ様に手紙に目を通している。

「手紙、おば様から?」

「ああ。珍しく今年のクリスマスには、ふざけたパーティーは無いんだな」

「シリウスも同じ内容だったんだ」

「名前はユリさんからか。クリスマスの事が?」

「うん。今年はブラック家と合同だってね。ちょっと久しぶりだよね?」

「そうだな。俺は毎年そのほうが断然良い」

「私も退屈なパーティーは嫌いだよ」

またこの季節がやってきたわけだが、今年のプレゼントはどうしようか。それを考えるのも醍醐味のひとつだけれど、毎年の事だから選ぶのもだんだんと難しくなってくる。レギュラスにはクィディッチに使えそうな物をあげたい。きっとこれから彼はスリザリンの選手になると思う。シリウスには何をあげようか。クリスマスが来るまでに早く考えなければ。

「もう皆のクリスマスプレゼントは決めた?」

「まだ決まってないのか?もうすぐクリスマスだぞ」

「分かってる。早く決めなくちゃ」

「今年も楽しみにしてる」

「まだシリウスにもあげるなんて言ってないもん」

「おいおい、薄情なやつだな」

今年のクリスマスは楽しくなりそうだ。わくわくと胸を躍らせながら、デザートの糖蜜パイを頬張る。今年の授業もあと少し。そう考えるといつもより頑張れそうな気がした。


「えーと、次はなんだっけ?」

「これを入れて左右に5回ずつ回すんだ」

「ありがとう。本当にセブルスと一緒だと早く終わるね」

魔法薬学ではリリーとペアを組む事や、こうやってセブルスとペアを組む事が多い。彼と組むと、必ず1番に完成してしまう。満足そうな顔で私達を見るスラグホーン先生に2人で苦笑いしながらも、完成した薬を瓶に入れて提出する。
周りを見ると、不思議な色の煙が出ている大鍋があったり、みんな四苦八苦としている様子だ。

「セブルスは今年のクリスマスはどうするの?」

「特にする事もないし、毎年変わらない」

「今年も何か送ってもいい?」

私の言葉に少し驚いた顔をする彼に、私はまだ、彼とは友達になる事が出来ていないのかと寂しくなる。友達とはクリスマスプレゼントは交換するものだ。

「…今年も僕にくれるのか?」

「もちろん!」

「あー…その、僕も何か送っても?」

その小さな声が、私にとってどんなに嬉しかったか、彼は知らないだろう。去年彼から貰った紅茶も、とても美味しかった。

「嬉しい。ありがとう」

「いや、こちらこそ…」

そんな彼と手際よく片付けを済まして、教室の隅っこの椅子に並んで座る。そろそろみんなも薬が完成して来た様だ。

「お父さんがね、セブルスに会いたいって言ってたよ。」

「え…」

「今度遊びに来てね!」

私はそれだけ言葉にすると、片付けが終わった様子のリリーの元へと向かった。来年か再来年、リリーと一緒に彼も遊びに来てくれると良いな。

「リリー、終わった?」

「ええ。相変わらず早いわね、貴女達は」

「リリーも早いじゃない」

「今度は一緒に組みましょうね!」

「もちろん!」

優秀な2人を見て、とても嬉しそうに微笑むお父さんの顔が浮かぶ。私も負けてはいられない。
相変わらず騒がしジェームズ達の横をすり抜けて、リリーと次の授業へ向かった。


「じゃあまた来年ね。良いクリスマスを!」

「リリーも!」

雪がチラホラと舞うこの日、ホグワーツ特急からキングスクロス駅へと帰って来た私達は、両親と笑い合うリリーと別れる。ジェームズやピーターとも先ほど別れたばかりだ。同じコンパートメントだったリーマスは、なんだか最近様子が変だった。そんな彼もまた、家族の迎えを待っている。

「リーマス、元気ない?」

「えっ?…そんな事ないよ」

「なら、いいけど…」

「じゃあ、僕は行くから…。シリウスもまたね」

「ああ、またなリーマス」

矢継ぎ早に言葉を残して、私達に背中を向けたリーマスは、やはりどこか様子が変だ。私と彼の視線が合わないのは気のせいだろうか。
いつからだろう。リーマスの態度がいつもと変わったのは。シリウスはそんなリーマスを特に気にする様子もない。私の思い違いだろうか。もしかしたら体調が悪いのかもしれないし、何かあったのかもしれない。年が明けたら元に戻っていればいい。そうなっていてほしい。

「名前、どうかした?」

「なんでもない。レギュラス、鼻が赤いよ」

「だって寒いから」

「あ、来たぜ。ユリさんと我々のお母様が」

「やっと帰れる!早く行こう!」

「おい名前、引っ張るなって」

冷たい2人の手を握って、お母さん達の元へと走り出す。私達に気が付いたお母さんは、呆れた顔をしながらも私達を迎え入れてくれた。
この、何処からかする嫌な予感が、当たりませんように。