僕はどうしてもミアの飼い主に会いたかった。言われた本人にとっては訳が分からない事だとは思うけれども、飼い主にお礼が言いたかったのだ。いつもありがとう、と。
「ねぇ、白い猫を飼っている生徒を知っているかい?」
「白い猫?」
「俺は見た事ないな」
「まぁシリウスは興味が無い事には全く無関心だからね。でも僕も見た事はないよ」
ジェームズの意見に僕も納得をした。シリウスならともかく、ジェームズもそう言うのなら間違いないのだろう。それに僕も寮内で見た事は無い。他寮の生徒か、それとも誰かが隠して飼っているのか。猫は禁止されているペットでは無いし隠す必要も無い為、後者は考えにくい。あの綺麗な毛並からして野良猫という事もありえないだろうから、おそらく他の寮の生徒のペットだろうか。
「おいジェームズ、なんて事を言うんだ」
「本当の事だろう?君には名前か悪戯の事かスリザリンか、まぁ後は弟くんくらいにしか興味が無いだろうからね」
「悪戯はジェームズも同じだろ。それにスリザリンなんかには興味の欠片もないね」
「名前と弟君には何も言わないとは、相変わらずだね君は」
「ちょっとジェームズ笑い過ぎだよ。シリウスが怒っちゃう」
「ピーターもそう思うだろう?」
「えっ!…まぁ、」
「お前らいい加減にしろよ?」
名前やリリーにも聞いてみようか。男子は女子寮には入れないし、まだ僕が見た事が無いだけで、誰か女性とが飼っているのかもしれない。確かにミアは男子が飼っているとは考えづらい。どちらかといえばあの白い猫は女の子が好む猫だろうから。
笑いながらシリウスをからかうジェームズに少しだけ僕も参戦して、その日はちょうど日付が変わった頃に眠りについた。
「リーマス、大丈夫?」
「っ…大丈夫だよ」
あの日からまた1ヶ月が過ぎた。今夜は僕の一番嫌いな夜だ。
白いベッドに横たわる僕を心配そうな表情で見つめる名前に何とか返事を返す。彼女はどうしてそんな悲しそうな表情をするのか。そんなにも今の僕の体調は悪そうに見えるのだろうか。実際は最悪なのだけれど。
「…お大事にね。早く明日になるといいね」
「うん。明日には治っているといいな」
本当に、早く明日になればいいのに。僕は心の中でそう呟く。
そうしてまた夜はやってきて、満月の光が僕の醜い身体を映し出す。今日も僕はこの小さな白い猫に救われた。結局ミアの飼い主は分からずじまいだ。やけに眠そうなミアの頭を撫でながら、ふと良い事を思いついた。いつもミアは僕より先にこの叫びの屋敷を出て行ってしまうのだが、彼女を追い掛ければどこに帰って行くのかが分かるのだろうか。さずがに違う寮の中までは入れないが、どの寮の生徒のペットなのかだけでも分かればだいぶ進歩だろう。こんな自分の傷だらけの体を他の生徒に見せる訳には行かない。痛む傷を抑えながら、出来る所まで彼女を追い掛けたいと思った。
「なんだか今日はやけに眠そうだね。あんまり寝ていないのかな」
「にゃあ!」
「もう行くの?今日もありがとう、楽しかったよ。
じゃあ、また来月ね」
ミアは僕の頬を一度舐めると、いつもの様に窓から屋敷を飛び出した。その動作はいつもよりゆっくりで、あのくらいの早さだったら僕にも追いかける事が出来る。少し今日は体調が悪いのだろうか。ミアには申し訳ないが、僕にはちょうどいいと思った。急いで僕も叫びの屋敷を抜け出して、少し遠くに行ってしまった白い背中を追い掛ける。
「…禁じられた森?」
ミアはホグワーツ城とは別の方向、禁じられた森の中に入って行く様だった。まさかミアは生徒のペットでは無いのだろうか。それともただ単に、森の中へ遊びに行っただけなのか。僕は森の奥まで入る事は出来ない。何がいるのか分からないのだから。しかし彼女は森の奥までは行かずに、入口近くのやけに木が生い茂った場所へ入って行く。そして僕はそこで、信じられないものを目にする事になる。
「え?」
ミアが入って行ったであろう其処には、愛らしい白い猫の姿は無い。そしてその代わりに、よく見知った女生徒の姿があったのだ。
「名前…?」
どうして彼女はこんなに朝早くに、こんな所にいるのだろうか。そしてミアはどこに行ったのだろうか。彼女に気付かれない様に身を隠しながら、遠ざかる名前の背中を見つめる。
それはとても信じられない事だが、ずっと前から僕はどこかで思っていた事がある。ミアは彼女に似ていると。