text | ナノ

すっかり陽がのぼり、カーテンの隙間から僅かに光が部屋へと差し込む。いつの間にか寝てしまったようだった。思わず頭と身体の痛さに顔をしかめる。頭が上手く回らなくて、ゆっくりと重い身体を起こすと、テーブルの上には空き缶や食器などが乱雑に置かれていた。そのテーブルを囲むように、蛍くんと山口くんが眠っている。私の身体には何故か毛布がかかっていて、ちょっとびっくりした。きっと二人のどっちかが掛けてくれたのだろう。正直、昨日の記憶が途中からあまりない。二人にそっと起こさないように毛布を掛けて、私はシャワーを浴びるべく浴室へと向かった。

少し熱いシャワーを浴びながら、昨日あったことを整理してみる。二人と飲み始めて、山口くんとはしゃいで、そういえば山口くんは先に寝てしまったんだった。あれ、その後はどうしたんだっけ。

「………あ」

思わず自分の唇に手を添えてしまう。わたし、もしかして蛍くんと…?そう考えただけで身体中が熱くなって、シャワーのせいではない熱が私を支配した。もしかしたら夢かもしれない。夢だとしても、とんでもない夢なのだけれど。それに現実だとしても、両方とも酔っていたわけだし、そんなことは結構みんな日常茶飯事のはずだろう。記憶が曖昧すぎて、なにがなんだかわからない。大丈夫、服はちゃんと着てた。それよりこんなことをしている場合じゃない。シャワーを止めて、身体を拭いて服を着て、とりあえずそのまま部屋に戻ろう。もしかしたら二人が起きているかもしれない。

「お、おはよう……」

「……おはよ」

案の定部屋に戻ると蛍くんが身体を起こしていた。よりによって彼か。

「…シャワー浴びちゃえば?」

タオルで髪の毛を拭きながら、いつもと同じように彼に話しかける。大丈夫、なにも変わらない。いつもの私だ。

「ん、…じゃあ借りるよ」

「どーぞ!」

あれは夢、現実じゃなかった、そう思えば、私の日常はなんら変わらない。蛍くんを見ればちょっとドキドキするけれど、それはかっこいい彼が悪い。髪の毛を乾かして、部屋を片付けて山口くんを起こして、かるい朝食を作って。そんなことをしているうちに、私は昨日の記憶を頭の隅の方に追いやった。

「フレンチトースト?」

「ん、…食べれる?」

頷く彼を見ながら、ああやっぱりかっこいいなぁ、なんて思ってしまった。ちょっと濡れた髪が妙に色っぽい。まったく顔がいいっていうのは本当に得だ。

「山口くんが出たらご飯食べよう?」

「並べるよ」

「ありがとう」

三人分の、フレンチトーストと作りおきをしていたサラダ、出来たてのオニオンスープを机に並べてもらった。うん、きっと味も悪くないはず。見た目もちゃんと朝食っぽい。

「ごめんねー、シャワーも借りちゃったし、ご飯も作ってもらっちゃってさ…」

「名前ちゃんがちゃんと料理できたみたいで安心したよ」

「えー?わたしだってさすがにもう三年目なんだから!山口くんも別に気にしないで!」

いただきますをして、出来たてのフレンチトーストに手をつける。よかった、美味しい。一人暮らしを始めてもう三年目なんだ。これくらい簡単な料理もできなかったら、さすがに恥ずかしい。

「蛍くんって、料理も上手そうだよね…」

「ツッキーはなにやってもできちゃうからねー」

蛍くんの作った料理も食べたいなぁなんて、そんなことを考えてしまった。それが伝わったのか、彼は一つため息をついた。

「はいはい、今度は僕の家でやればいいでしょ」

「じゃあ次は夏休みにしよう!」

「なに山口、夏休みもまた来るの?」

「え!ダメなのツッキー!」

「いいけど、来すぎ」

「ほんっとに山口くんは蛍くんが好きだよね」

「うん!!」

「気持ち悪いよ、山口」

懐かしいなぁ、このかんじ。私と蛍くんは席が近くて少しだけ話すようになって、蛍くんと仲の良い山口くんも必然的に話すようになって。高校三年間同じクラスだったっていうこともあって、それなりに長い時間を共有してきた。久しぶりのこんな懐かしい時間に、心が暖かくなる。やっぱり大学と高校の友達はどこか違う。高校の友達は一生の友達というけれど、本当にそうだと実感した。

「名前ちゃんご馳走様!また東京に遊びに来たときはよろしくね!」

「うん、気を付けて帰ってね!」

「また大学で」

「今年からは一緒だもんね!よろしくね」

「いいなぁ〜」

二人を駅まで送って、名残惜しいけど山口くんと別れの挨拶をして。休み明けにはまた大学が始まる。蛍くんとは前より会う確率も高くなるだろうし、山口くんもまた東京に遊びに来てくれるだろう。そう思ったら面倒くさい講義も、ちょっとだけ頑張ろうと思い始めてきた。

「じゃあまたね!」

「うん!バイバイー!」

この友情が一生ものだったらいいのに、そんなことを考えた。