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切れてしまった携帯が着信を報せるのは直ぐの事だった。ディスプレイには山口くんの名前が表示されていて、私は彼が忙しい時に掛けてしまったのではないかと申し訳ない気持ちになる。私が山口くんに電話する事はあまり無いので、きっと彼も驚いている事だろう。

「もしもし、山口くん?」

≪あ、名前ちゃん!さっきはごめんね≫

「私こそごめんね。忙しいならまた後でも大丈夫だよ?」

≪いや、そういうわけじゃないから…。実を言うと、今俺東京に来てるんだ≫

「えっ、うそ!」

≪嘘じゃないよー。昨日からツッキーの家に泊まってる≫

宮城にいる彼が東京に来ているとは知らなかった。山口くん、こっちに遊びに来ているんだ。山口くんはちょくちょく東京に来ているようで、本当に蛍くんと仲が良いのだと思う。それにしても、蛍くんの家に泊まっているとは、今も一緒にいるのだろうか。それは、少し困るなぁ。

「…蛍くんいるの?」

≪さっき一緒にいたけど、今1人で出てきた。だから一度電話を切ったんだ、ごめんね≫

「そうだったんだ」

≪名前ちゃん、ツッキーの事で俺に電話したんじゃない?
それなら、近くにいたらまずいかと思って≫

ほっと安心した私に山口くんは笑いながらそう言った。やはり彼は何でもお見通しの様だ。その気遣いがとても嬉しいのだけれど、山口くんの思っている通り私は蛍くんの事で相談したくて彼に電話をしたわけで。それが少し気恥ずかしい。

「やっぱり山口くんには分かっちゃうかー…、蛍くんの事でちょっと相談したくて」

≪そっかそっか、俺でよかったら話聞くよ?≫

「ありがとう」

黒尾さんでもよかったのかもしれないが、やはり蛍くんの事なら山口くんに相談したほうがいいと思った。同い年の山口くんはその人柄か、とても話しやすい。今までも何度ともなく色々な相談に乗ってもらった。さすがに、今までに蛍くんの事で相談をした事はなかったけれども。

「実は、少し前に蛍くんに告白されて、」

≪あー、うん≫

「私、正直そういう風に蛍くんの事を見た事がなかったから、付き合うとか考えられなくて」

≪…俺からこんな事言っていいのか分からないけど、ツッキーはずっと名前ちゃんの事好きだったと思うよ≫

「ずっと…?」

≪うん。高校の時からね≫

「…え」

蛍くんは私のどこを、いつから好きになってくれたのだろうかと考えた事があった。確かに長い時間を一緒に過ごしてきた分、他の女の子よりも特別仲が良いと思っていたのも事実だ。でも彼が私の事を、そういう意味で好きになってくれるだなんて思ってもみなかった。私より可愛いくて何でも出来て、蛍くんに似合う優しい子はたくさんいるし、彼ならより取り見取りだろうから。

≪ツッキーが名前ちゃんみたいに、特別優しく接する子なんて他にいないでしょ?≫

「そんな事、ないよ…」

≪名前ちゃん、怖いだけなんじゃない?≫

「怖い?」

≪うん。ツッキーとの今までの関係が崩れるのが≫

もし付き合って、もし何かあって別れてしまったら。もう彼とは今までの様な関係には戻れない。それが、私はどうしようもなく怖かった。今の関係なら、友達としてでもずっと一緒にいられる気がしたから。私はこの関係に甘えていた。
そんな正直な私の気持ちを山口くんに伝えると、彼は真剣な声でこういった。

≪俺は、2人とも大切な友達だと思ってるよ。ツッキーはずっと憧れの存在だし俺のヒーローで、こういったら怒られるかもしれないけど親友だとも思ってる≫

高校の時から山口くんは言っていた。ツッキーは俺のヒーローなんだよ、って。

≪名前ちゃんには、ちゃんとツッキーの気持ちに答えてほしい。それがどんな答えでもいいから、後先なんて考えずに素直な気持ちをツッキーに伝えてほしいんだ≫

私はただ、誰かに背中を押してほしかっただけだ。弱虫な私は、中々一歩を踏み出す事が出来なかったから。

「山口くん、ありがとう」

私の言葉に、彼は照れたように笑った。次に彼に会うときは、ちゃんとした報告が出来るといいな。