ツッキーの部屋には今までも何度が泊まった事があった。頻繁に東京に遊びに来ている気がするのだが、まぁそんな事は気にしない。ツッキーは少し呆れている様だけれども、俺が遊びに行けばなんだかんだいって付き合ってくれるのだ。昨日から東京に遊びに来ていた俺はいつものようにツッキーの家に泊めてもらい、一緒にご飯を食べたりお酒を飲んだりとそんな過ごし方をしていた。
最近の気になる事といえば、やはり名前ちゃんとの事である。ツッキーは高校の時からずっと彼女が好きだったはずだ。そんな名前ちゃんと、同じ建物に通うようになったのだから、何か進展があるはずなのではないか。そう思ってしまう。今でも、どうしてツッキーは高校の卒業式の時に彼女に告白をしなかったのか、不思議で仕方ない。2人なら、間違いなく両想いだと思うのに。
「ツッキーは最近どう?」
「…何が」
「いや、今までとは環境が変わっただろうからさ。何かあるかなって」
「特に何もない。まぁ大学に人が増えたけど」
「ふーん」
甘いチューハイを飲みながら、ツッキーが作ってくれたおつまみを摘まむ。やっぱりツッキーは料理も上手だ。
「…名前ちゃんとは?」
「は?名前ちゃん?」
「うん。同じ校舎になったでしょ?」
少し顔色が変わったのは、何かあるからだろうか。
「あー、…告白した」
「え!」
ツッキーはそう言って、グラスに入っていた梅酒をゴクリと飲み干した。告白、やっとしたんだ。随分かかった、そんな気がする。
「付き合ってるの?」
「付き合ってない」
「…どういう事?」
まさかツッキーが振られるはずがないし、どうみたって2人はお互いの事を好きでいると思うのに。ツッキーが告白するか、それとも名前ちゃんが告白するか、どちらかだと思っていた。
「いろいろとあるんだよ」
新しいサワーの缶を開けたツッキーは、何故か楽しそうな顔をしていた。時間の問題、というやつなのだろうか。ツッキーの顔を見る限り、心配はいらないみたいだ。
そんな時、鞄の中に入れっぱなしだった自分の携帯が、電話を報せる音を響かせた。電話なんてあまりこないのに、一体誰からだ。親だろうか。そんな軽い気持ちでディスプレイを確認すると、なんとそこにはとてもタイムリーな人物の名前が表示されていて、思わず声に出して相手の名前を口に出してしまった。
「えっ、名前ちゃん?」
「…名前ちゃんから電話?」
「あ、うん、ちょっと出てみる」
どうしてツッキーではなく、僕なのだろうか。一気に機嫌が悪くなった様な声色のツッキーを尻目に、着信ボタンへと指を伸ばす。名前ちゃんから電話だなんてとても珍しい。出来れば、ツッキーがいない所で電話が来てほしかったのが本音である。このままの状態で電話に出るのは、些か問題がある気がするのだが、ツッキーに誰からの電話かを伝えしまっているわけで。このまま違う所に移動するのは、そのほうが後で大変な事になりそうだ。
俺は恐る恐る着信ボタンを押し、携帯を耳に当てる。そこからは聞き慣れた彼女の声がした。
「もしもし?名前ちゃん?」
《あ、山口くん?》
「うん。どうしたの?」
《ちょっと相談したい事があって》
「もしかして、」
《…その、蛍くんの事なんだけど》
ツッキーの事で相談がしたい。彼女は確かにそう言った。いつになく声のトーンが低い彼女に、何かあったのだろうか。この状態で話していいものではないのは間違いない。
「ごめん、名前ちゃん。すぐに折り返すから、1回切るね」
《え?あ、うん》
一度電源ボタンを押した俺は、怪訝そうな顔をするツッキーを見た。
「ごめんツッキー、ちょっと外で話してくる」
「は?…どういうこと」
これはツッキーの為でもあるのだ、きっと。だから、今だけは許してほしい。
「何、僕の前じゃ話せない内容なわけ」
「うん。これからツッキーの話をするから」
俺のその言葉に、不機嫌そうに歪められた顔から一転、何を言っているんだこいつとでも言いたげな表情へと変わった。俺はそんなツッキーの表情に笑いながら立ちあがる。
「じゃあそういうことだから、話が終わったら帰ってくるから!」
さぁ、俺も一肌脱ぎますか。大切な親友と、友達の為にね。