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「名前ー、ご飯食べよう!」

新しく出来た友達に、新しいクラス。なにもかも新しい環境だったこの空間も、だいぶ慣れてきた今日この頃。午前中の授業も終わり、仲良くなった友達と机を合わせてお喋りをしながらお昼ご飯を食べる。最近私と仲良くしてくれるのは、みっちゃん(佐々木美月ちゃん)という大人っぽくて可愛らしい女の子だ。去年は違うクラスだった為、こうやってよく話すようになったのは今年が初めてである。

「あ、飲み物無くなっちゃってたんだ」

「買ってくるの?」

「うん、ちょっと行ってくるね」

「行ってらっしゃーい」

お弁当を食べ終わり今日のデザートである苺を食べている時に、小さめのお茶のペットボトルが空になっていた事に気が付いた私は、残りの苺を食べ終わるとお財布を持って教室を出た。自販機は体育館の近くにある為、教室からは少しばかり遠い。何を飲もうかなと考えながら、お昼休み特有の騒がしい廊下を歩いているとすぐに目的の位置に着いた。

「何にしようかな…」

並んだ飲み物を見てちょっと甘い飲み物が飲みたくなった私は、久しぶりにぐんぐんヨーグルトでも飲もうかと、小銭を自販機の投入口に入れる。ガコン、と音を立てて出てきたそれは冷たく、パックには結露が出来ていた。
目的の物を買うことが出来た私は、さぁ帰ろうと後ろを振り向く。そして、その先の廊下からは男子生徒が走りながらこちらに近づいてきていた。やけに特徴的な髪の色をした彼は新入生だろうか。パリッとした制服が懐かしい。そんな彼とすれ違い自分の教室へ向かおうと歩いていた時、後ろからやけに大きな声がした。

「あーー!」

この声の持ち主は、十中八九先程すれ違った男の子のものだろう。何かあったのだろうかと心配になった私は、恐る恐る後ろを振り向く。そこには先程の彼が自販機の前で俯きながら、遠目から見ても分かるくらいに少し震えていた。これは、声を掛けたほうがいいのだろうか。

「…大丈夫ですか?」

もと来た道を戻った私は、勇気を出して見知らぬ彼に声を掛けた。大きなお節介かもしれないけれども、体調が悪かったりしたら、ほおって置くのはまずいと思ったからだ。

「はっ、すんません。なんでもないっス!」

「すごい声だったけど、本当に大丈夫?体調悪い?」

「いやいや!ほら、俺は見るからに元気なんで!あざす!」

「それならいいけど…」

本人が大丈夫というなら本当に大丈夫なのだろう。釈然としないが、これ以上お節介を焼くのは相手に迷惑だと思った。

「先輩ですよね!」

「え?あー、2年です」

「やっぱり!俺は1年っス」

「そっかそっか。私も1年生かなぁ、って思ってたよ。
あ、飲み物買わないの?邪魔してごめんね」

思った通り彼は1年生で、少し大き目の学ランはまだまだ新しいものの様だった。私が入学してもう1年も経つとは、本当に時の流れは早い。ここにいるとは、恐らく彼も飲み物を買いにきたのだろう。私も、この少し温くなってきたぐんぐんヨーグルトが飲みたい。

「いやー、飲み物買いに来たんですけど…」

「ん?どうしたの?」

やけに歯切れの悪い彼は、もごもごと恥ずかしそうに言葉を続ける。

「それが、10円足りなくて」

「えっ、10円?」

「はい…。ちゃんとお財布に飲み物買えるくらいのお金はあると思ったんスよ…」

深刻そうな顔で何を言うのかと思ったら、そんな事だったのか。いや飲み物が買えない彼には死活問題なのだろう。
私は手にもっていたお財布の口を、もう一度開いた。たまには先輩らしく振舞ってみたい。

「はい、これ。10円使って」

「え!!」

「飲み物買えないと困るでしょ?だから、よかったら」

「…本当にいいんスか!?あざっす!」

嬉しそうに10円を握りしめた彼の笑顔はとっても眩しくて太陽みたいだ。彼は本当に明るい性格なのだろう。

「じゃあ、私はもう行くね。またね」

今度こそは帰ろう。もうすぐお昼休みも終わってしまう。彼にそう告げて自分のクラスへと足を進めると、すぐ後ろで大きな声がした。

「先輩、名前とクラス教えてください!」

「えっ?」

「俺は西谷夕です!絶対10円返しますから!」

「ありがとう!私は2年5組の苗字名前です。」

少し大きめの声で、彼に自分の名前を伝える。西谷夕くん。よし、覚えよう。

「苗字先輩、また!」

大きく手を振る彼に、私も手を振り返して、今度こそはと私は自分の教室に戻る。手に持っていたぐんぐんヨーグルトはすっかり温くなっていたけれど、こんなお昼休みも悪くないと思った。