「そんなに持って大丈夫か?」
「重い…」
「一気に持つからだろ?半分持つから、ほら」
「ごめんー、ありがとう」
あっという間に季節は春へと変わり始め、もうじき私達も2年生と進級をする。明日に控えた卒業式の為に、私達のクラスである1年4組は隣のクラスである5組と共に、放課後に椅子並べや会場整理などを行っていた。こういった体育館を使った学年行事では、順番にクラスで椅子並べをする事が決まっている。それが今回は私達のクラスへと回ってきたわけだ。面倒だなぁ、と思いながらも早く部活へと行きたかったり帰宅したいが為に、皆協力しながら作業を進めていった。
私の持っていたパイプイスを半分持ってくれた澤村は本当に面倒見が良い。よく周りの事を見ているなと思う。そんな彼と、同じクラスでいられるのもあと少しだ。
「もうすぐ2年生だね」
「そうだなー、早いな」
「澤村にはいろいろとお世話になった気がする」
「そうか?俺のほうこそ、苗字には怪我した時とかすぐに手当してくれて助かってたよ」
「みんな怪我しすぎなんだって。体育とかあるとすぐに擦り傷作ってくるし」
「はは、悪いな」
「1年間お世話になりました!」
「こちらこそ、ってまだ早いだろ?」
「いいの!」
進学クラスである私達は、クラス替えがあっても2クラスしかないのだから、他よりもなりたい人と同じクラスになれる確率は高い。それでもまた皆とは同じクラスになれるわけではないのだから、クラス替えはドキドキとしてしまう。仲が良い子と同じクラスになりたい。
澤村と話ながらパイプイスを並べながら周りを見渡せば、粗方もう椅子は並べ終わってきていた。この調子だとあと少しで終わりそうだ。
「なーに、2人でサボってんだよー」
「菅原くんだ」
「おー、スガ」
今日は5組も一緒に椅子並べをしているんだっけ。5組である菅原くんは、爽やかに笑いながら澤村をからかっていた。
「2人で楽しそうに話してるからサボってるように見える」
「ちゃんと手も動かしてるよ?」
「スガこそちゃんとやってるのか?」
「やってるやってる!」
「あやしい!」
「苗字さんが酷い…」
「えー、そんな事ないよ〜」
「…お前ら、いつも間にそんなに仲良くなったんだ?」
菅原くんとそんな軽口をたたいていれば、不思議そうな顔をした澤村がそう問いかけてきた。同じクラスでもない私達は、特に接点もなさそうだからだろうか。接点といえば、あの保健室での出来事がキッカケではあるのだけれど。
「俺らちょくちょく話してるからさ」
「会えば話すよね?でもまさかこんなに話すようになるとは思わなかったけど」
「確かになー」
廊下ですれ違ったりすれば挨拶や当たり障りのない世間話をしたり。そんなに頻度は多くないけれど、他のクラスのしかも異性とこんなに話をするのは菅原くんしかいない。
「へぇ〜、俺の知らないところでそんな仲になっていたとはな」
「誤解を生むような言い方はやめようね」
「なんか大地、おっさんくさい」
「おい、そんな事言うなよ」
「はは、やっぱり2人とも仲良いね」
仲の良い2人の会話はとても面白くて聞いているだけで笑ってしまう。部活動で濃くて長い時間を一緒に過ごしているんだ。そりゃあ仲良くなるのだろう。なんだか少し羨ましい。
「苗字笑い過ぎ」
「めっちゃ笑ってるじゃん」
今度も、今度は、同じクラスになれるといいな。