テレビの向こうでは新年の挨拶が飛び交っていた。先ほどから鳴りっぱなしの携帯は、友達からもので忙しそうだ。一人一人に返事を返し、私も仲の良い人に言葉を送る。お母さんが作った年越し蕎麦を食べながら、年が明けたのだと実感した。
「神社、行かないの?」
「んー、友達と待ち合わせしてるよ。
そろそろ行かなきゃ」
「気をつけるのよ。いってらっしゃい」
「はーい、行ってきます」
年越し蕎麦を食べ終えて、ソファに置いてあったコートとショルダーバックを手に取る。お母さんに見送られながら、ブーツを履いて外に出た。とても寒くて、ぐるぐるに巻いたマフラーに顔を埋める。息は白く、冷たい空気は容赦なく肌に刺さる。
「うー、寒い」
小走りになりながらも、近くの神社に足を進めた。神社の前には小学生の時から仲の良い友達2人が、白い息を吐きながら楽しそうに笑っている。毎年この2人と、この神社に行くのが恒例だ。
「あけましておめでとう!遅くなってごめんね」
「名前ちゃん、あけましておめでとう!今年もよろしくね!」
「遅いよ名前!あけおめ!」
「ごめんごめん!今年もよろしくね!」
いつも通り新年の挨拶を交わして、たくさんの人で賑わっている境内へと足を踏み入れる。白い息を吐きながら楽しそうに話をする人々は、年が明けたという事もあり浮かれているようだ。自分もそのひとりなのだけれど。
そしてまずはお参りという事で、参拝の列の最後尾に並んだ。今年は何をお願いしようか。去年は受験生という事で、必死にお願いをしたっけ。今年は勉強の事など置いておこう。高校生らしく、楽しく友達や皆と過ごしたい。そんな大雑把なお願いでも良いだろうか。
「2人は何をお願いする?」
「んー、どうしようかなぁ」
「私はかっこいい彼氏が欲しい!」
「彼氏?」
「そうー!名前だって彼氏いないでしょ?」
「まぁ、そうだけど…」
「高校生だもん。そういうの憧れるよね」
好きな人もいないのに、まだ私に彼氏は難しいだろう。そりゃあ女子高校生だし、少女漫画の様なキラキラとしたお話にはどうしても憧れてしまう。中学生のときだって、全くそういう色恋沙汰がなかったわけではない。でも、やはり中学生と高校生では何かが違うと思ってしまうのだ。中学生から見た高校生は、どうしてもキラキラと輝いている様に見えてしまう。高校生になってから1年近くが経つが、中学生の時とあまり変わらないと思ってしまうのは、私の生活が平和過ぎるからだ。こんな生活も嫌いではないけれども。
「彼氏って、好きな人でもいるの?」
「いない!これから出会う予定!」
「えー、なにそれ」
そんな事を話していれば、もう私達の番が回ってきた。いつも頼りにしている神様にお願い事をして、おみくじを引いて、少し屋台で何かを食べる。これが私達のここ数年変わらない。年明けの過ごし方だ。今年のおみくじは大吉、うん、何だか良いことがありそうだ。
片手にからあげを持って、友達の焼きそばをつまみ食いして、さぁそろそろ帰ろうかと思っていた時、やけに色素の薄い髪色が目に入った。友達と楽しそうに笑し合う彼は、最近よく話すようになった同級生。
「あ…」
「ん?どうしたの?」
「あー、同級生がいただけ」
「烏野?」
「そうだよ」
声を掛けようか迷ったけれど、友達といる様だし邪魔をしては申し訳ない。また新学期が始まったら会えるだろうから。あまり大きくない地元の神社で、知り合いに会うのはよくある事だ。彼もここから家が近いのだろうか。
「そろそろ帰る?」
「うん、寒いしね」
当たり前だけれどもう時間は真夜中なわけで、寒いし眠くもなってきた。家に帰って暖かい布団で眠りたい。家に帰ろうと歩みを始めた時、この人ごみの中から高めの声が聞こえた。
「苗字さん?」
すぐ後ろには、先程まで少し遠くにいた同級生の姿。驚いた顔で私を見ている。
「あっ、菅原くんだ」
「苗字さんがいたからびっくりした!家近いの?」
「うん、わりと近いよ。菅原くんも?」
「うん。毎年ここに来てるんだ」
「えっ!私もだよ」
「ええー、じゃあ会ってたかもな」
「そうだねー」
菅原くんも毎年ここにお参りに来ていたとは。もしかしたらすれ違っていたのかもしれない。意外な発見だった。お互いの家もわりと近いのだろうか。
「あっ、あけましておめでとう。今年もよろしく!」
「あけましておめでとう!こちらこそよろしくね!」
新年の挨拶を交わしてお互いに笑い合う。今年も楽しい年になりそうだ。