「俺見ちゃったんだよねぇ」
これでもかと嫌な顔をする月島を見て、さらに笑いが込み上げてきた。俺は今とても楽しそうな顔をしているのだろう。楽しくて仕方がない。
苗字ちゃんと夜久とも別れて、話がしたいと提案した俺に月島は嫌々ながらも頷いた。こうやって2人で話す事もかなり久しぶりなわけで。積もる話もあるだろう。不機嫌そうな顔をする月島くんにはないのかもしれないが。
「…話さなくていいです」
「おいおい、それは酷くねぇか」
「いえ、全く」
「つっきー?」
「ああ、すいません。つい本音が」
相変わらず可愛げのない後輩に苦笑いをしつつ、まぁこんな長身の男に可愛げもなにもないのだけれども、懐かしい高校時代を思い出した。今も楽しいけれど、やはりあの時が一番楽しかった気がする。
お昼過ぎにファミレスに行き、それからだいぶ長い時間4人で話したものだから、もうすぐ陽が暮れそうな時間になってしまった。月島の最寄の駅の近くを、フラフラと当てもなく歩く。
「この路線の一番大きな駅にさ、なんか可愛らしい店があるだろ?」
「ええ、まぁ」
「あそこでさぁ、つっきーらしい奴がいるなぁと思ったわけよ」
「…人違いじゃあないですか?」
月島の僅かに顔色が変わったのを見て、やはりそうだったのかと確信した。
確か先週の、今よりも遅い時間。女の子しか行きそうにないその店に似つかわしい長身の男がいるのを見掛けた。よく見ればその手には、なんだか可愛らしいぬいぐるみを持っていて、しかもその人物が自分の見知った奴と背格好が似ているとなれば、まぁかなり驚いた。彼女へのプレゼントか?とでも思いながら、話し掛けたい気持ちをグッと抑え、遅れそうだった会社の飲み会に向かったものだ。
「しかも随分と可愛らしい物を持っているなぁと思ったぜ」
「そんなところまで見てるんですか?」
「たまたま見えただけだからな」
「黒尾さん…」
「そんな目で見るな」
気持ち悪い物でも見るかの様な月島の視線を受け流しつつ(なんだか研磨に似ている)、俺は今日一番聞きたかった質問をする事にした。頭の良い月島なら、検討がついているのだろうけれど。
「苗字ちゃんの鞄に、やけに見覚えのある物が付いているな〜と思ったら、そういう事か?」
「さぁ?」
「ビンゴだろ」
「だったら何ですか」
「いや、別に。月島ってああいう子がタイプなんだと思っただけ」
こいつは見た目だけは良いのだから、言い方は悪いが女の子なんて選びたい放題だろうに。あの2人の感じからして、まだ付き合っているわけではなさそうだった。高校からの友達だと言っていたから、意外と一途なんだと正直驚いた。
「…黒尾さんは名前ちゃんの事をどう思ってるんですか?」
「可愛い妹みたいなもんだよ」
「へぇ…」
「いや、マジだから。それに苗字ちゃんも俺の事兄貴みたいに接してくるしな」
つい最近バイトをしていたあのコンビニに入ってきた2つ下の彼女は、初々しくて可愛らしかった。仕事内容を教えれば、笑顔で聞いてくれるし、意外とノリも良い。俺の事を兄貴のように慕ってくれていたと思う。自惚れでなければ。
「つっきーも頑張れよ。まだ付き合ってないんだろ?」
「言われなくても分かってます」
まぁ、俺に出来る事があるなら、可愛い後輩達の為に一肌脱いでも構わないけれど。
「あんまりちょっかい出さないでくださいね。
名前ちゃんは渡さないんで」
おいおい、随分格好いい事を言ってくれるじゃねぇの。俺の協力なんて、どうやら必要ないみたいだ。いつか2人がそういう関係になったなら、盛大にお祝いをしなければ。目の前の後輩はこれでもかというくらい嫌な顔をするだろう。それさえも可笑しくて仕方がない。少し先の未来に、笑みが零れた。