「じゃあ、行ってくる」
いつものように家を出る彼を見送る。いつもと違うのは、私を抱きしめる力の強さと、泣きそうに笑う顔。
「気をつけてね」
レギュラスが姿現しをする音を聞いて、私も準備に取り掛かかった。クリーチャーはやはり今日はいないみたいだ。黒いローブに腕を通し、大切な杖を身につける。フードを深く被り、私も彼らを追うように姿現しをした。
久しぶりの姿現しに少しよろけつつ、目的の場所に着いたことに胸を撫で下ろす。彼らは見当たらない。おそらくもう中に入ってしまったのだろう。私も急いで中へと足を進める。
「お願い、まだ無事でいて…」
ルーモスの灯りで洞窟を照らしながら歩くと、目の前に湖が広がっていた。湖の中央は明るく照らされていて、そこに見慣れた二つの姿がある。ここからではよく見えない。私も近づかなければならない。本で見たとおりなら、おそらくこの湖の中には亡者がたくさんいる。持ってきた小さな船を魔法で大きくして、私はその湖を渡った。
「レギュラス様!レギュラス様!」
「もう嫌だ、もう飲みたくない!やめろ!やめてくれ!!」
耳を塞ぎたくなるような彼の声に、自分の目を疑う。あんな錯乱したレギュラスは見たことがなかった。
「レギュラス様!あと少しでございます!お願いです!!」
涙を流しながら、クリーチャーはそう言って彼になにかを飲ませる。
「もう嫌だ!やめろ!!」
「これで最後ですレギュラス様!」
おそらく最後であろうものを飲ませると、クリーチャーはロケットを水盆の中へと入れる。あれは確か、ブラック家の家宝だ。レギュラスはぐったりと衰弱し、倒れてしまっていた。私は急いで船から飛び降りレギュラスの元へと近寄る。
「レギュラス!」
「名前様!」
衰弱したレギュラスをそっと抱きかかえると、彼は静かに目をあけた。
「名前…?」
「レギュラスっ、…レギュラス!」
「どうして、なんで…」
そんな私達に容赦なく亡者が襲いかかる。私は無我夢中で杖を振るった。
「私は最後まで貴方と一緒にいる。貴方が死ぬなら、私も死ぬの」
涙が溢れて止まらない。どうして。ねぇ、どうして。レギュラスがこんな目に合わなきゃいけないの。私達に普通の幸せは無理なのかな。
「……名前がいるから、もういいよ」
もうここから抜け出せるなんて、できないだろう。助けは誰もこないのだから。私達はもう、助からない。普通の幸せじゃなくても、レギュラスとずっと一緒にいたかったよ。
「あとはクリーチャーに任せようか」
私はゆっくりと杖をおろした。もうこれでおわり。私はレギュラスに出会えて幸せでした。レギュラスもそう思ってくれてたら、なんてね。
「名前、これからもずっと一緒だ」
なによりも、そのレギュラスの言葉が嬉しかった。ああ、そうか。これからもずっとずっと私達は一緒なんだね。それがどこであろうとも。たとえ深い闇の中だとしても。
冷たい水の中でお互いの手を握りしめて、
「好きよ、レギュラス」
最後に見たのは、幸せそうに笑う大好きなレギュラスの顔だった。
ああ、私は幸せだね。
星が瞬く夜に end