「うーん、何食べようかなぁ」
美味しそうな食べ物の写真が並べられたメニューを見ながら、あれもこれも食べたいと考える。此処は大学近くの有名な某ファミレス。どうしてこうなったのかは些か疑問ではある。まさかこの不思議なメンバーでご飯を食べに来るとは思わなかった。
「じゃあ、俺は秋刀魚の定食。夜久はどうせ野菜炒めだろ?」
「おい、どうせってなんだよ。
野菜炒め食べたいけど無いし、ハンバーグで」
「ハンバーグ美味しそうですよねー!
じゃあ私は和風ハンバーグにしようかな」
「お、いいじゃん。つっきーは?」
「……オムライスで」
「女子か」
私よりも女の子らしい物を選んだ蛍くんは、黒尾さんにからかわれてさらに眉間のシワを濃くした。蛍くんは機嫌が悪そうだ。それを分かった上で、黒尾さんもああやっているのだろうから、2人は本当に仲が良いのだろう。
私達は店員さんにそれぞれの食べたい物と、ドリンクバーを4つ注文する。
「名前ちゃんの分も持ってきてあげる」
「えっ、いいの?ありがとう!」
「じゃあ黒尾は俺の持ってきて。ウーロン茶で」
「へいへい。つっきー行こうぜー」
「黒尾さんうるさいです」
楽しそうな2人を、手を振りながら見送る。前に座る夜久さんも声を上げて笑っていた。
「相変わらず仲良いね、あの2人」
「いつもあんな感じなんですか?」
「そうそう。黒尾がからかってさー。
月島くんが可哀想だったな」
「黒尾さん、人を煽るの好きですもんね」
「いい加減にしてほしいよ」
こうやって夜久さんと話すのも久しぶりだ。まだそんなにたくさん会った事はないけれど、彼はいつも私に優しくしてくれる。
「苗字ちゃん、本当に月島くんと仲良いんだね」
「高校3年間同じクラスだったんですよ」
「へぇー、…それにしても仲良いよ。
さっきだって苗字ちゃんの飲みたい物聞かないで行っちゃたじゃん」
「あ、そういえば…」
言ったつもりでいたけれど、どうやら違ったようだ。まぁ、蛍くんなら言わなくてもオレンジジュースを持ってきてくれるだろう。私はいつもオレンジジュースを好んで飲んでいるから。
高校生の時は蛍くんと、山口くんとも一緒によくファミレスにも来ていた。またあの烏野の近くのファミレスで勉強会でもやりたいなぁ、と懐かしい気持ちになる。
「なーに2人で話してんだ」
夜久さんとかるい談笑をしていると、グラスを2つずつ手に持った2人が帰ってきた。蛍くんの手には、オレンジジュースが入っているであろうコップがある。それに嬉しくなりながら、お礼を言って彼からグラスを受け取る。
「っていうか、苗字ちゃんが烏野とか、まじてビビったわ」
「私も蛍くんと知り合いだったなんて驚きましたよ」
「日向とか影山とかも同じ学年って事だろ?」
「わぁ、懐かしいですね。その2人とはあんまり仲良くはなかったですけど…」
「名前ちゃんと黒尾さんはバイト先が一緒だったんですか?」
「おう。夜久は俺繋がりな」
世間って狭いのだと改めて感じていると、私達が注文した物が次々と運ばれてきた。皆んなでいただきますをして、それぞれが食事に手をつけ始める。久しぶりに食べた気がする和風ハンバーグは美味しい。隣の蛍くんのオムライスも、卵がふわふわトロトロしていてとても美味しそうだ。
「一応聞くけど、2人は付き合ってんの?」
ハンバーグを咀嚼していると、黒尾さんがそう質問してきた。そこは、あんまり触れてほしくなかったのが本当の所だ。
「付き合ってないですよ、まだ」
意味有りげに笑った蛍くんを見て、黒尾さんは楽しそうに口笛を吹く。ニヤニヤした顔が隠しきれていない。
「へぇ〜、そうなんだ〜。良い事聞いたな」
「ちょっと蛍くん!あんまりそういう事言わないで!」
「黒尾お前もあんまり2人を虐めるなよ?ほっといてやれよな」
「夜久さんの言う通りですから、黒尾さんはあんまり名前ちゃんにちょっかい出さないでください」
「苗字ちゃん可愛いから、苛めたくなっちゃうんだよ〜」
今すぐこの場から消え去りたい。恥ずかしすぎる。何の罰ゲームなんだろう、これは。気にすんなよ、と声を掛けてくれる夜久さんは相変わらず天使だ。
眉間に皺を寄せた蛍くんと、楽しそうに笑う黒尾さんがセットという事は、デフォルメなのだと知ってしまった。こうやって皆んなでご飯を食べたり話をしたりするのは楽しいのだが、こういう空気はあまり好きではない。そういえば、この前黒尾さんとご飯に出掛けた時に相談した男の子の事を、黒尾さんならすぐに蛍くんだと結び付けただろう。相談しする相手を間違えてしまったと後悔する。
「また4人で恋バナしようぜ!」
楽しそうに笑う黒尾さんを気持ち悪いと思ってしまったのは私だけではないはずである。