お気に入りの淡い水色のワンピースを着て少しオシャレをした私は、休日だというのに大学に足を運んでいた。今日は蛍くんと黒尾さんに誘われたバレーの試合の日なのである。低めのパンプスのヒールを鳴らしながら、目的地である体育館へと足を踏み入れる。
「わ、みんな集まってる」
観客席には疎らに人がいて、コート上には懐かしい顔ぶれや、新しく見る顔で賑わっていた。その中に黒尾さんと夜久さんを見つけて、知らず識らずのうちに自分の顔が緩むのが分かる。2人の反対側のコートには、久しぶりにスポーツウェアを着こなしている蛍くんがいた。彼はこの中でもやはり身長が高いらしい。私に気が付いた蛍くんは、ニヤリと悪戯っ子の様な顔をする。
久しぶりに見る生でのバレーの試合にわくわくしながら、私は少し前の方の席に陣取って、今から始まる試合に胸を躍らせた。
数セットゲームをこなし、そろそろ時間になってきた頃、今日の練習は終わりになった。正午を少し過ぎた時間、ちょうどお昼時だ。
黒尾さんのスパイクも、夜久さんの綺麗なレシーブも、そして淡々とした表情で当然の様に決める蛍くんのブロックも、全てが本当にかっこよくてもっともっと見ていたいと思ってしまう程、素晴らしい試合だった。
私も帰りの準備をしようと立ち上がった時、すぐ目の前にあんなにかっこいいブロックもスパイクもたくさん決めていた彼が姿を現した。
「名前ちゃん」
「蛍くん!お疲れ様!」
「ん、ありがとう」
「久しぶりに観たけど、とってもかっこよかった!
蛍くんのバレーを見るの高校以来だから懐かしかったよ」
「こうやって観客席にいる名前ちゃんを見るのも久しぶりだしね」
そんな風に蛍くんとたわいもない話をしながら、あの2人にも挨拶をしなきゃいけないと思い、少し周りを見渡す。酷く驚いた様子の2人を見つけて、疑問に思いながら私は彼らに手を振る。そんな私に気が付いた蛍くんも彼らに視線を向け、そんな私達に黒尾さんと夜久さんは血相を変えながらも近づいてきた。
「ちょっと、お前ら知り合い!?」
「え?」
開口一番にそう言葉を発した黒尾さんは、挨拶もそこそこにさらに言葉を続ける。
「月島と苗字ちゃん知り合いなのか!」
「えっ、黒尾さんこそ蛍くんと顔見知りなんですか?」
「ああ、まぁな…って、確か苗字ちゃん出身宮城だっけか?」
「そうですよ?蛍くんとは高校の同級生です」
「まじかよ」
「は?どういうこと?名前ちゃんと黒尾さん知り合いなわけ?」
「バイト先が一緒だったんだけど…」
今ここにいる全員が皆、同じ様に驚いた表情をしているだろう。まさかまさか、蛍くんと黒尾さんが顔見知りだったなんて。思っているより世間は狭い。
「やー、意外だわ。にしても、あんなに驚いた黒尾の顔久しぶりに見た」
「いやだって、仲良さそうに2人で話してるんだぜ?そりゃあ驚くわ」
「夜久さんお久しぶりです!」
「苗字ちゃん久しぶり。今日はありがとうね」
「そっかー、苗字ちゃん烏野かよ」
「黒尾さんが烏野を知っている事自体びっくりですよ」
「俺らの高校とちょっと因縁があってさ、まぁ後で詳しく話すけど…よかったらこれから飯でも行かない?」
「夜久さんも知ってるんですね!
ご飯行きたいです!あ、でも他のバレー部の皆さんとか大丈夫ですか?」
「あいつらとはたまに会うし大丈夫。
おーし、月島も行くだろ?」
「え、聞いてないですけど」
「今言ったからな。
じゃあ俺ら着替えてくるから、ごめん苗字ちゃん少し待ってて」
そう言うと、嫌そうな蛍くんを引っ張りながら3人は部室へと行ってしまった。なんだか今ので、2人の関係性が分かってしまったような気がする。黒尾さんは相手の懐に入るのが本当に上手いと改めて感じた。3人と大学の門の前で待ち合わせをして、私もゆっくりと其処に向かう。
それにしてもまさか黒尾さんが蛍くんと知り合いで、しかも烏野を知っていたなんて。夜久さんも詳しいみたいだ。確か蛍くんと山口くんが、東京によく合宿に行っていたのもこれに関係があるだろうか。十中八九、間違いないだろう。
烏野の因縁のあった高校、それが黒尾さんと夜久さんの母校だったなんて、かなり気になってしまう。これから聞く話にわくわくしながら、私は3人との待ち合わせ場所へと足を進めた。