久しぶりに来たこの体育館は、去年まで何回も通っていたところだ。まだ数ヶ月しか立っていないというのに、既にもう懐かしさがこみ上げてくる。馴染みのあるボールを触りながら体育館を見渡した。懐かしい顔に自分の顔がニヤけるのが分かる。
「よっ、久しぶりだなツッキー」
「いい加減その呼び方止めてもらえませんか。…お久しぶりです」
その仏頂面も相変わらずのようだった。同じ大学とは聞いていたが、今までは建物が違っていたので会うことはなかった。こうやって、月島の嫌そうな顔を見るのもだいぶ久しぶりだ。この体育館でこいつに会うことが、とても新鮮で不思議な気分だった。
「いやー、久しぶりに一緒にバレーが出来て嬉しいぜ」
「そうですか」
「今日は夜久もいるからさ。まぁ、負けねぇけどな」
「僕らだって負けないですけどね」
同じ学部で同じくバレーサークルだった夜久とも、プレイをするのは久しぶりなのだ。絶対に負けるわけにはいかない。それに今日は、俺を応援してくれるであろう、可愛い後輩もいるのだから。
暫くすると夜久も合流して、三人で話しながらもストレッチなど、入念に準備を始める。こっちのチームのOBはもちろん見知った顔ばかりで、またこいつらとバレーができる事が嬉しい。が、それよりもまた、ゴミ捨て場の決戦が出来らたらと思ってしまう。こう思うのは少し気持ち悪いけれども、音駒が恋しくなってしまった。
「今日は苗字ちゃん来るんだろ?」
「おう、声かけた」
「会うの久しぶりだなー」
夜久と彼女は、もちろん俺繋がりで仲良くなった。バレーを観にきてくれたときに、俺が夜久を紹介したのだ。あまり人見知りをしない苗字ちゃんは、面倒見の良い夜久によく懐いていた。そういえばあの子は月島と同い年になるのか。
「なんか今日機嫌良くね?もしかして彼女でも来んの?」
「違いますよ。黒尾さんには関係ないですから」
「そんな冷たいこと言うなよー、俺とツッキーの仲だろ?」
「うっわ黒尾うぜー」
「夜久は相変わらず酷い」
ケラケラ笑いながら月島の背中をバシバシ叩けば、案の定、不機嫌そうにため息を吐いた。それが面白いから何度もやってしまうのだが。
そんな月島はさっさっと俺たちから離れて、在校生のいる方へと行ってしまう。もうそろそろ試合が始まるのか。
「そろそろ試合始めるぞー」
1つ上の先輩の言葉を合図に、俺たちもエンドラインに並ぶ。久しぶりにバレーをする事が楽しみで仕方なかった。
体育館の観客席にあの子を見つけて、もっとヤル気になったりして。ニコニコと俺たちを見る姿に、あんな妹が欲しかったなぁ、なんて思ったりもする。
「お、苗字ちゃんだ。久しぶりに見た」
「よっしゃー、夜久、絶対負けないからな」
「当たり前」
目の前の月島に笑いかけると、彼も珍しくニヤリと笑っていた。
「なんだよツッキーやけにヤル気じゃん。やっぱり彼女でも来てんのか?」
「黒尾お前あんまりからかうなよ」
「だってツッキー可愛いからさ〜」
「キモイ。かなりキモイ。」
相変わらず酷い夜久の言葉を頂いた。しかし今のはさすがに自分でも気持ち悪いと思ってしまったのだが。
さぁ、可愛い後輩にかっこいい姿を見せましょうか。
バレーが出来る嬉しさを胸に、笛の音を聞いて、俺はボールを上に放った。さぁ、サービースエースでも決めますか。