クリーチャーが帰って来てから数日後、傷もだいぶ癒えてきていた彼を自分の部屋へと呼び寄せた。レギュラスは朝早くから出掛けていてこの家にはいない。死喰い人が活発に活動している今は、レギュラスも忙しいだろう。
「クリーチャーの紅茶はいつも美味しいね。」
「クリーチャーめにはもったいなきお言葉でございます…」
嬉しそうに顔を緩めた彼を見て私も嬉しくなる。レギュラスはクリーチャーを凄く大切にしている。幼いころからブラック家という重圧に耐えてきた彼にとって、クリーチャーは唯一の友人だったのだろう。兄が家を出て、全ての責任がレギュラスにのし掛かった。そんな彼を助けてきたのは紛れもなくクリーチャーだ。彼はずっとブラック家、とくにレギュラスに仕えている。クリーチャーも誰よりもレギュラスのことを大切だと思っているだろう。
「ねぇ、クリーチャー。私はね、レギュラスが大切なの。クリーチャーもそうでしょ?」
その私の言葉に、彼はキョトンと不思議な顔をした。そして何度も何度も頷く。
「当たり前でございます!クリーチャーはレギュラス様のためにはなんだって致します!」
だからもしクリーチャーに何かあったら。クリーチャーがあんなにも痛めつけられたら。絶対にレギュラスはそれを許さない。
「もちろん名前様も同じです。貴女はいつも私に優しくしてくださる…」
レギュラスはきっともうずっと前から動いてる。何か大きな事をしようとしているに違いない。クリーチャーに何があったのかは分からない。だけど、とてもまずいことだと言うことは私にだって分かる。
「ありがとう。私もクリーチャーが大好きだから」
オロオロと大きな瞳から大粒の涙を流す彼に、少しの罪悪感を覚えた。私が今からすることは、決して良いことではない。本当はしてはいけない事を、私はしようとしているんだ。私は魔法で紅茶を出すと、それをクリーチャーに渡した。
「クリーチャー、よかったらこれを飲んで?」
「そ、そんなことは出来ません!」
「お願い」
しぶしぶ彼はそれを受け取り、カップに口をつける。そしてゆっくりと液体を飲み込んだ。途端に彼の表情が変わった。
「…大丈夫?」
彼を椅子に座らせ、そう問いかける。彼は静かに頷いた。私の心臓は激しく脈を打ち、発する声が少しだけ震える。
「クリーチャー、レギュラスは何をしようとしているの?貴方に何があったの?」
その問いの答えを、彼はすんなりとくれた。ゆっくりと私の耳に入ってくる真実に、私はただ唖然としてしまう。レギュラスは自分を犠牲にしようとしている。私に何ができるかは分からない。何もできないかもしれない。でも彼を一人にするのは、私だけが生きるなんて、そんなのは絶対に嫌だ。
「ありがとう。…分かったわ」
私がクリーチャーに飲ませたものは真実薬だ。これしか方法が思いつかなかった。私はクリーチャーに、してはいけないことをしてしまったのだ。
「…ごめんね、クリーチャー」
彼に解毒薬を飲ませ、使い慣れた自分の杖をギュッと握る。そしてそれを彼に向けた。
「オブリビエイト」
貴方と一緒に私も。