ボールの弾む音が心地良い。綺麗なフォームで次々とシュートを決めていく彼は、本当にかっこいいと思う。こうやって皆の自主練が終わったあとも、1人で残って練習だなんて。さすが主将というべきか。
「はい、お疲れ」
「おう。サンキュー」
使っていたボールを籠に返して、少し汗をかいた彼にタオルと飲み物を渡す。
「早く着替えてきなよ。下駄箱で待ってるから」
「おう」
部室に向かった彼を見て、既に制服に着替えていた私は下駄箱に向かう。所詮、私と笠松はバスケ部の部長とマネージャーという関係だ。もう3年近くマネージャーとして彼についていれば、女の子が嫌いな笠松だって私とは普通に話してくれる。そんな存在も私だけのはずで。それが少しだけ嬉しいのは、やはりそういうことなのだろうか。
「悪い、待たせたな…って雨降ってんのか」
「あ、ほんとだ」
「ほんとだって気付かなかったのかよ」
変な事を考えていたせいか、雨が降っていることにさえ私は気付かなかったようだ。こんなに大きな音を立てて降っているというのに。
「笠松、私傘持ってない」
「…はぁ、しょうがないから入れてやるよ」
「えへへ、ありがとう」
彼がエナメルバッグから取り出した黒い傘を広げる。こんな小さい折り畳み傘に2人も入るのだろうか。そんなことを考えている間に、いつの間にか笠松が進み出したので私も慌ててその黒い傘に入った。歩く度にパシャパシャと水の跳ねる音が聞こえる。
「ごめんね。…笠松の肩濡れちゃってる」
「あー、気にすんな。…濡れてないか?」
自分の事なんてそっちのけで私を気にするなんて、彼はどこまで優しいんだろう。部員に風邪のひくようなことをさせて、私はマネージャー失格だ。
「ねぇ、笠松はなんでそんなに優しいの」
「…優しくねぇよ」
周りには誰もいなくて、雨の音と私達が歩く音しか聞こえない。まるでこの世界にいるのが、私達2人だけのようにさえ感じる。
「そんな優しくされたら、みんな勘違いするじゃん…」
「お前はしてるのか」
「………してるよ、ばか」
どうしてこんな会話をしてるんだろう。始めたのは私なんだけれども、自分で言ってて凄く恥ずかしい。何言ってるんだろう、わたし。思わず前に向けていた視線を足元に移した。
「勘違いしろよ」
その言葉に驚いて顔を上げた。彼の顔を見ればその白い肌は真っ赤に染まっていた。ねぇ、何でそんなに赤いの。期待しちゃうじゃん。
「俺がこんなことするのも新井だけだから」
そんな男前なこと言わないでよ。
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外はあんなに雨が降っているのに
(私は今、最高に幸せです)