俺が帰ってきたときには、すでに名前は庭にいて井戸で水を汲んでいた。
あいつは俺が近づいていることにきっと気付いているだろう。だが、あいつは黙々と井戸水を汲んではかけ、汲んではかけを繰り返していた。
今は5月、水はまだ冷たい。しかし名前はそれを頭からかぶっていた。
あいつの足元には赤色が混じった水溜まりが出来ていた。



「おかえり尊くん」


バザァ、と水が音をたてて流れ落ちる。名前は水を汲む手を止めようとしない。


「何してるんだ?」
「…血を、ね。流してるの」

フフ、と微かに笑う声が聞こえた。


「尊くん、忍務は?ちゃんと成功したかしら」
「当たり前だろ。お前こそどうなんだよ」
「尊くんったら、私が失敗すると思ってるの?」
「あぁ。情か何かにでもとっとと流されてくれないかと、いつも思ってるよ」


そう言ってやると、名前は声をたてて笑い始めた。
水に濡れ、いつもより綺麗に光る黒髪を揺らしながらこちらを向いて微笑みながら言った。


「情に流されてちゃ、プロの暗殺者なんてやってられないわよ」




名前は全身びしょ濡れで、服や体についていたであろう赤の色は、もう全て流されていた。
あいつの服は所々汚れたりしていたが、体自体には一切傷がついてはいなかった。
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