「尊くんから呼び出しなんて珍しいわね。なんの用かしら?」


満月が顔をだし、空が真っ黒に染まるなかで星が輝く丑三つ時、俺達忍にとっては行動をしにくくなる今日。俺は名前を呼び出した。
名前はいつものように笑顔で俺を見てくる。しかし、この笑顔も無理してつくっているものだろうか。俺には分からない。


「お前、何を悩んでいるんだ」


そのとき、名前がピクリと反応した。しかし俺から顔を背けず言い返した。


「なんのことかしら?」
「隠したつもりなのか。バレバレだぞ」
「それでも尊くんはこの理由を知らない、それならいいのよ」


長めの髪をさらりと指で弄んだり、くしゃくしゃとかきあげたりし始めた。
やばい。このままでは理由を聞き出さずにこいつを帰すことになってしまう。そんなことをしたら、また組頭から馬鹿にされてしまう。そんなことを考えたら、一番言いたくない言葉が口から出ていた。




「俺はお前のこと、仲間だと思っていた」


心から思っていない台詞だった。しかし俺のこの言葉を聞いたとたん、名前は髪をいじる手を止めた。まじまじと俺を見つめてくる。


「だから俺は、お前が教えてくれると………」


言葉が出なくなった。名前は表情を一切変えていない。なのに涙だけが頬を伝って落ち始めたのだ。それに気付いたのか、顔をごしごしと拭った。そして何かを決めたように、ゆっくりと深いため息をついた。



「尊くんは、例えば組頭や山本さん、高坂さんみたいな恩師や先輩を殺せって言われたら、その通りにできる?」


時間が止まったようだった。この短い言葉だけで全て理解できた。こいつの恩師がいるのはあの学園、だからこいつは、


「名前、」
「でもね、尊くん。私は刺客なの。裏切る覚悟もある。人の生を左右することも分かってる。私は自分でこの仕事を選んだの」



そう言い切ると名前は走りだした。塀を乗り越え外に消えていく。俺の足は自然とそちらに動いていた。何度でも言おう。俺は名前が嫌いだ。

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テーマ「推しとの恋」
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