「あら、尊くんはまたお留守番?」
休憩中、部屋で小頭から頂いた煎餅を噛っていた俺に、クスクスと笑いながら話しかけてきたのは同じタソガレドキ忍者の名前だった。
「別に留守番などしてないさ。今はただ休憩してるだけだ」
そう答えると彼女は、あら?と呟いた。
「でも組頭は忍術学園に向かったらしいわよ」
「組頭あああぁぁ!!」
俺が食べていた煎餅を放り投げ駆け出すと同時に、彼女の笑い声はいっそう大きくなった。
名前は4年前に俺と一緒に働くようになったこの城に勤めるくの一だ。少し名の知れた女らしく、頭達も一目置いている存在だった。そして、見かけによらず彼女の専門は暗殺だ。今まで失敗したことはないらしく(まぁ失敗することは問題なのだが)殿からも絶対的な信頼を持たれているらしい。
俺は、自分でもよく自覚するほど彼女に『嫉妬』という感情を持っていた。
そう、俺は名前のことが大がつくほど嫌いだったのだ。