名前の様子がおかしかった。廊下であいつの横を通りすぎても、からかわれるどころか話し掛けてさえ来なかったのだ。
いつもだったらすれ違う時に呼び止められて話を聞かされることが当たり前だったから、物凄い違和感を感じた。
別に名前と会話をしたいと思っているわけでは決してない。
あいつは最近、ずっとあんな感じだ。先輩や頭達の前ではいつも通りの笑顔、しかし、一人になるとしょっちゅうため息をついているのだ。
「名前の様子がおかしいのですが、組頭、何か知っていませんか?」
「珍しいね。尊奈門が名前のことを気にするなんて」
あまりに気になりすぎて、俺は組頭に訪ねていた。返ってくる答えは大体見当はついていた。
「情報収集も忍の仕事だ」
ほぅら、やっぱり。
いくら仲間のことでも仕事の内容や、秘密をそう簡単にしゃべってくれるとは考えてはなかった。
しかし、一番知りたいことだけは聞いておきたい。
「すみません。…組頭、これだけは聞いておきたいんです。あいつの様子がおかしいことに、私が関係しているのでしょうか」
この言葉を聞くと、組頭は悩むように目を伏せた。
「尊奈門は、もっと名前のことを気にしたほうがいいかもね」
名前のことをもっと気に掛けてやる、いくら組頭に言われたことでも、こればかりは難しい。何せ名前は、今自分が最も嫌っている奴だ。しかし少しくらいはやってみようか。何せ俺は忍だから。