彼女は私にとって、娘のような存在だった。
私に本当にそう呼べる子がいなかったからか、余計に彼女にはそんな感情を持ち続けてしまっていた。

彼女に初めて出会ったのは5年前、名前が忍術学園の生徒であったときだった。最初に見たのは彼女が就職活動で我が主の城に来たときだった。そのとき彼女はすでに試験を終えていて、ここで働くことがほぼ決定していた。その試験に陣内が同行していて、私は彼女に会う前に話を聞いていた。


「あのくの一ですか?」
「どうだった?使えそうな子だったらいいんだけどねぇ」
「…組頭の期待できる者かもしれませんよ」


顔を見る前、私はただの少しばかり優秀なくの一だと思っていた。私は一応忍者隊の組頭であるから彼女の面接に付き合うことになっていた。


「……刺客?」
「はい。私は暗殺を専門にここで働かせて頂きたい」

彼女は私の眼を見つめながら淡々と告げた。
そのとき、私は彼女に異様な雰囲気を感じた。

この子は本当に人間なのだろうか。

こんなことを言っては彼女に失礼だろうが、きっと私の表現は間違ってはいないだろう。
実際、試験でも他の城の忍を、何人か殺したらしい。
確かに忍にとって、人を殺すことに抵抗を持つことは良くないことだ。しかし、彼女は異常なほどにこういった感情を持ち合わせていなかった。新人でここまでだとは、正直私は思ってもみなかった。

彼女はそのまま、城で働くことになった。
まだ新人だが、他の忍に比べて多くの任務をこなしていく。その多くはやはり暗殺だった。

そんな彼女だが、最初に娘のようだと言ったように、そういった一面も持ち合わせていた。


「雑渡さん!お仕事ですか?」
「うん。今日のはすぐに終わりそうな簡単な仕事だけどね」
「確か尊くんも一緒でしたよね?」


すでにこの時、2人は知り合いだった。尊奈門が彼女のことを嫌っていたため、仲が良いとは決して言えなかったが。


「じゃあ雑渡さんと尊くんが帰ってくるまでに、高坂さんとでも一緒に煎餅買いに行っておきますね!」


彼女は満面の笑みで私に笑いかけてきた。
そう、くの一でなければ彼女は、そこら辺にいるような可愛らしい女の子なのだ。



「名前は本当に尊奈門が好きだねぇ」


そう言うと彼女は顔を真っ赤にして、軽く俯きながら呟いた。


「わ、私は雑渡さんだって、山本さんだって、高坂さんだって好きですよ」
「その感情とは違うものでしょ?」


ため息混じりに言うと、彼女もため息をつきながら恥ずかしそうにそして哀しそうに答えた。


「尊くんは…私のこと、嫌いでしょうけどね」
「名前がわざとそうさせてるんでしょ」



「…忍が恋なんて、駄目になるだけです。でも私は、尊くんのことを嫌いになんてなれないから、尊くんに私のこと…嫌いになってもらわないと………馬鹿ですね、私は。もうプロなのに子供みたいなことを言って」

「じゃあ私、戻ります。怪我しないように願ってますね」

「お仕事、頑張って下さい」


彼女は私に背を向け、来た道を戻って行った。

彼女は1人の、誰かに恋をする女の子なのだ。一部を除き、周りからは好かれ、仕事もそつなくこなす、ただの女の子。

そんな彼女だったから、こんな結末をむかえると、私は想像することが出来なかった。

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