「あ、やばい。火薬切れてる……」
箱の中、壺の中を引っ掻きまわしたりしてみたが、火薬が残っている雰囲気は一切ない。余談だが、私は火薬を得意とするポスト立花先輩だ(三木ヱ門とは一緒にしないでほしい)。そのため、火薬委員会に入ることを許されていない。まぁ、あの池田と同じ委員会に入る気なんてさらさらないが。
「どうしようかなぁ…」
火薬を買うお金は今手元にない。年頃の乙女というのは、いろいろ大変なのだ。昨日、皆でお団子を食べに行ったばかりでもある。
…………万策尽きた。仕方がない。
「そうだ。焔硝蔵に行こう」
しかし、あの豆腐好きで有名なお堅い変人久々知先輩がそう簡単に火薬を渡してくれるとも思わない。仕方がない、今度定食の豆腐料理を分けてあげよう。それでもだめなら巷で有名な豆腐屋の豆腐を買えばなんとかなりそうだし。火薬を買うよりは豆腐一丁なんて安いものだ。はい、久々知先輩攻略。
次はタカ丸さんだ。まぁタカ丸さんは……久々知先輩がいいって言ってたとか言えば素直に渡すだろう。タカ丸さんだし。はい、タカ丸さん攻略。
そうとなったらとっとと行こう。私は明日の予習をしなきゃいけないのだ。
行こうと思って廊下を歩いていたらちょうど久々知先輩に会った。予想通り豆腐と引き換えに火薬を手に入れる交渉成立作戦大成功。だが、そんなんでいいのか、先輩。
そして私は先輩達の攻略に悩んでいて、忘れていた。下級生の存在に。
「駄目だ」
「はぁぁ!?何言ってんのよ。久々知先輩から許可貰ってんのよ!」
「蔵ん中響くから叫ぶなうるさい。どうせ豆腐で釣ったんだろ」
「うっ……」
硝焔蔵にいくと、委員会の仕事なのか、あいつは火薬の点検をしていた。
くそ、忌々しい池田の存在を完全に忘れてた。きっと思い出したくなかったからだろう。記憶の片隅にも存在してなかった。
なんで池田なんだ伊助だったら素直に渡してくれただろうに……。
「どうせ金がなくて火薬がかえねぇから来たんだろ。これは学園のなんだよ。帰った帰った」
「なっ、なんでそんなピンポイントで当ててくんのよ。なんなの池田のくせに、私のこと好きなのかよ!」
拳を握りしめながら言い返すと、あいつはバッとこちらを向いた。顔を見ると、眉がつりあがっていて怒っているようだけれど顔が林檎のように赤すぎてそんな風に見えない。
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ!お前に渡す火薬はねぇって言ってんだ、とっとと帰れ!!」
ワナワナと震えている池田の声が蔵の中で響く。叫ぶなって言ったのはあいつのくせに。そんな池田に私は無理やり外に追い出された。後ろでドオンと音を立てて扉が閉まる。
あーーやっぱり池田ムカつく!!