「ダッイビーングッ!!」

ザブンと音をたてて水しぶきが上がる。その音を造り出したのは紛れもなくこの私である。しかし、私が水の中に飛び込んだりしたわけではない。私の服は濡れているが。

「おまっ、いきなりなんだよ!?」

海の中から顔を出したのは三郎次だ。髪は海水に濡れてペタペタと顔にはりついていた。私は砂浜から離れた海の中にぽつんと突き出している岩の上に座っていた。ここまで私は服が濡れることなんて考えないで泳いできたのだ。だから服が半乾き状態なのである。元々三郎次も一緒に座っていたのだが、私がそこから三郎次の背中を押してやったのだ。

「私にはいろいろ理由があるの」
「意味分かんねぇ」

三郎次は男のくせにぶつぶつ言いながら岩をよじ登ってきた。いつも忍者になるための訓練をしているからか、流石に登るのがはやい。
そんなことを考えると、三郎次は私と違うことを実感させられる。今三郎次は忍者になるために私とは違う生活を送っている。自分の夢のためにそれを選んでいったのだ。
それなのに、あいつはそのことを聞くと哀しそうな顔をするのだ。

そんな顔をしたいのはこっちだっつーの!三郎次が村から離れて寂しいのは私なのに、何で私より先にそんな顔するのよ。いっつも私は1人、だけど三郎次は学園に友達がいるぶんすごくましじゃない。あーあー、こんなことなら私も学園に入れば良かった「全部口に出てるぞ」

三郎次の方を向くと、彼は変な顔で私を見ていた。私の心の声だと思っていた言葉は全て口から漏れていたらしい。なんてこった。

「だって三郎次に隠し事しようとしたって、全部見破られちゃうもの。黙ってたって、損するだけ」

私は暇になってぶらぶらさせていた足で三郎次を軽く蹴飛ばしてやった。あいつは顔色ひとつ変えずにそれをうけた。なんだかつまらなくなってきた。

「……何であんたは、そんな顔するの」

海を見つめながら聞いてみる。海面にはそこを覗いている私と前を見ている三郎次がうつっていた。三郎次は口を開いたり閉じたりを繰り返していて、もどかしくなってる。

「私、三郎次じゃないから。言ってくれなきゃ分かんないよ」

そう言ってやると、三郎次は意を決したよいに口を固く結んだ。何をするかと思ったら、一瞬片足を岩場に乗っけて、その足で私を蹴飛ばしていた。完全に気を抜いていた私は簡単に岩の上から落ちた。今度は私が水しぶきをあげる番だった。私が泳ぎが得意で本当に良かった。一応私だってこいつと同じように漁師の娘だ。

「何すんのよ!」
「俺にもいろいろ理由があるんだよ」
「何さそれ」
「せっかく休暇で俺が戻ってるっつーのに、何ブサイクな顔してんだよ!」
「ブッ…!それは三郎次が見たらイライラする顔したからでしょ?せっかく戻ってきたのに!」
「考えてたんだよ!」

三郎次はなぜか顔を真っ赤にしながら叫んだ。あ、耳まで赤い。

「もうちょっとしたら俺は帰らなきゃいけねぇだろ?だから、考えてたんだよ」
「だから何を」
「なっ………何をしてやったらお前が喜ぶかだよ!!」

もっと顔を赤くして、三郎次は砂浜にまで届きそうな声でまた叫んだ。
まさか三郎次は一緒にいれるこの休暇中に、私が楽しんでくれそうなことを考えてくれていたのだろうか。何か私と一緒に思い出を作ろうとしてくれていたのか。だから私が学園のことを聞いて哀しそうな顔をしたのだろうか。……そうか、そうかそうか。

「何にやけてんだよ」
「ん、何でもない」

私は海の中でプカプカと浮かびながら三郎次を見た。後ろに見える太陽が眩しい。三郎次が岩の上から手を差し出してきた。何さ自分から落としておいて。仕方なく捕まって岩を登る。

「ねぇ、三郎次」
「なんだよ」
「私がしてもらって嬉しいことはね、三郎次に大事にされることかな」

人差し指をたててそう言うと、また突き落とされた。言ったそばからこいつは。私は三郎次の足を掴んで引きずり落としてやった。

「私は三郎次が大事だよ。大切だよ」
「……俺だって大切だよ」

一応な。なんて付け足しやがった。
三郎次が学園に帰るまで、あと少し。
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