いきなりだが、『イケメン』と聞かれて皆さんはどういった人物を想像するだろうか。ちなみに、私の持っている百科事典では『イケメン』というのは、顔がかっこよくて美形のことを言うらしい。それについては否定はしないが、本当にそれだけで『イケメン』と決めてしまっていいのだろうか。
「いさっ君…何してんの?」
「あ、由里ちゃんおはよ」
今私の前にいるのはお隣さんで幼馴染の伊作である。伊作は地面に座り込んでいた。地面には教科書やら筆箱やらが散らばっている。本人の顔や制服はなぜか泥で汚れていた。
ちなみに今『イケメン』の話をしたのは、目の前にいる伊作が『イケメン』と呼ばれる子だからだ。
私もつい最近知ったのだが、私たちの学校では伊作のファンクラブが存在しているらしい。
どんだけ人気者なんだこいつ。
「実は靴紐がほどけちゃって、それを縛りなおそうとしてしゃがんだらチャックが開いてたらしくて鞄の中身が落っこちちゃって、それを拾おうとしたら横を通った車のタイヤがあの水たまりに入ってその泥水が飛んできたんだ。ほんとまいっちゃうよ」
伊作は苦笑いをする。どう考えても笑っている状況ではない。
伊作は知り合いの間で、超が付くほどの不運と言われている。だが、これはもう不運と呼べるレベルではない。なんかただのドジッ子だ。
これをただの『イケメン』と呼んでいいのか。いや、だめだろう。けっして伊作のことが嫌いなわけではないがこれからは伊作の事を『残念なイケメン』と呼ぼう。うん、そうしよう。
「ほら、顔の汚れ拭いて。拾うの手伝ってあげるから」
私は伊作にタオルを渡し、散らばっている教科書を拾い始めた。
「ごめんね、ありがとう」
その言葉と一緒に顔に浮かんだ笑みを見ていると、皆が伊作のファンになるのも分かる気がする。不運など吹き飛ばしてしまいそうだ。
日直の日にこんな場面に遭遇する私もけっこう不運なのだろうが。