昔から彼女の目が嫌いだった。例えるならば狐のような、綺麗なつり目を嫌いというのは私だけかも知れないが。彼女がきらいなわけではない。むしろ私は彼女と仲の良いほうだったし、彼女が嫌われているわけでもなかった。
しかし、どうしても私は彼女の目を見て会話をすることが慣れなかった。
私が得意とする変装に関しても、彼女に変装して、と言われても、はい、分かりました。と言い切る自信は毛ほども存在していなかった。






「ね、三郎。あなたはその懐のものを私に渡すだけ。私はそれを貰うだけ。ほら、簡単なことでしょう?」
「私が学園で何も学んでないと言いたいのか?」


真っ暗闇で、彼女の目だけが光っている気がした。

苦無を構え直して言い返してやると、彼女は細い目をよりいっそう細めた。自分でも呼吸が乱れそうになるのがわかる。
追っ手は彼女一人だろうか。まだ他にもいるかもしれないが、気配が全く読み取れない。


今回は敵城の巻物を盗む、ただそれだけの簡単な任務だった。今までに何度か忍び込んだことのある城だったし、たいして難しく、重要な任務ではなかった。今回の任務を軽く見ているわけではない。私はただいつもの通り、他人の顔で周りを操っていけばよかったのだ。

だが考えが甘かった。しかし、こんなことを想定するほうが不可能だろう。
彼女は全く逆方向の遠い遠い場所にある城に勤めていたはずだった。


「こんなところで再開できるのは嬉しいけれど、私は今仕事中なの」


ごめんなさい。そう言いながら彼女は、微笑みを浮かべて袖から苦無を取り出した。

背筋を冷や汗がつたる。あ、今気配がいくつか感じた。
きっと私はここで終わるのだろう。直感がそう伝えてきた。なんと短い人生だっただろうか。
けれど仕方がないと思ってしまう私はなんと弱い者であろうか。自分で言ったくせに何も学んでないという言葉に今なら潔く頷ける。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -