誘いの歌
ホグワーツの三階の廊下。
そこでは時々この世のものとは思えない綺麗な歌声がどこからともなく聞こえてくる。
それはちょうど悪戯仕掛人の双子が入学した年から聞こえ始めたというが、誰も歌を誰が歌っているのか知らない。
犯人は幽霊だとも妖精だともたくさんの推測が行き交うが、その歌声に魅せられた人がその正体を探ろうとしても声の主を捕まえることはできていない。
いつしか歌声の主は舟人を海へ誘い込む人魚から"ローレライ"と呼ばれるようになった。
もちろんそんなローレライの存在を知った双子が動かないわけがなかった。
ウィーズリー家のフレッドとジョージはその三階廊下の歌声を調べ始めた。
何度も廊下を調べ、図書室でホグワーツの仕組みの本を漁り双子は壁の中を通るパイプが歌声を伝えていることに気がついた。
そしてそのパイプを辿ると地下にある魔法薬学の教室にまでたどり着いた。
場所が場所だけに不思議に思ったが時間のある時に二人は魔法薬学の教室を見張っていると、双子と同い年のレイブンクロー生、ルイが一人で教室に入って行くのを見つけた。
双子はやっと見つけたかと笑みを交わしこっそりと教室の扉に近づき、扉の奥の音を拾うために"伸び耳"という扉の隙間から入り込む耳を伸ばした。
「〜〜〜」
聞こえたのは、三階の廊下で聞こえていたこの世のものではない美しい歌声だった。
双子は思わずより伸び耳ごしではなくその歌声を聞くために扉の奥へ駆け込みたくなる衝動にかられたが、どうにか押さえた。
すると一通り歌い終えたのかルイの歌声が消えた。
「先生、今日の私の歌声は美しいですか」
「……」
その質問に部屋にいるスネイプは答えることなくカチャカチャとガラスビンをいじる音が聞こえた。
「先生はすごいですね。私の歌を聞いても大丈夫だなんて。普通の人でしたらローレライの血が入る私の歌声を直接聞いたら愛に溺れずにはいられませんのに」
「そのようにならぬよう我輩は君に薬を与えているのだがね」
「確かに薬のお陰で抑えられてはいますけど。それでも遠くから聞いた人でさえ私の歌声に魅せられている人はたくさんいます。まあ例外として私の歌声は好いている人がいると効きにくいですけど。先生は、誰か好きな人がいるのですか?」
「馬鹿馬鹿しい」
ルイの言葉をスネイプは薄情なほどにピシャリと拒んだ。
そして「少しここで待っているように」と言うと奥の部屋へ入り扉を閉める音が聞こえた。
それとあわせてため息が聞こえた。
「はあー。否定しないってことは気になる人がいるのかなあ」
教室にある椅子に座ったのか木の軋む音が聞こえた。
「人を誘惑できないようになるのはありがたいと思ってたけど。いっそスネイプ先生に薬飲まないで歌を聴かせたいなあ」
「そうすれば先生は私のものになるのに」
「ねえ、そう思わない?」
教室の扉が開く音がした。
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