不明な関係性 後
私は人より強いけれど、それでも私は誰よりも強く最強ではないから、いつかこんな時が来るとはわかっていた。
「はあ……」
思わずため息が出る。
私はある日海岸を一人散歩していた。
するとそこに突然お供も連れずにカタクリが現れて、煽り煽られでいったい幾度目かの戦いが始まった。
そして現在、私は砂浜で仰向けに倒れ、私の上にカタクリが逃げられないように腹に膝を置き体重を乗せ押さえつけられている。
私の首のすぐ横には彼の武器である槍が刺さり、キラリと鈍く光り私の首を切り落とさんばかりだ。
「殺すつもりがないのならどいて欲しいのだけど」
それでも首を落とさないカタクリにそう言うけど返事はない。
じっと私を見てくる。
この隙をつき逃げ出したいけど、その行動も読まれるのだろうな。
カタクリと戦う場合は見聞色のためある程度の距離を保たなければならないし、スピードが要求される。だから組み敷かれた今、逃げようがない。動かせるのは口だけだ。
だから何も言わないカタクリを良いことに私はカタクリへ話しかけた。
「取引しない?」
「取引だと?」
「ええ。私はまだ死にたくないし。殺さないでくれるのなら私にできることなら貴方の要求に応じるわ」
「それは取引ではなく命乞いだろ」
「いいえ取引よ。商人に取って取引は絶対だもの」
もちろんそこまで真面目ではない商人もいるけど、私はきちんと守る。
だからこそ信頼と信用で女だてらにこの地位まで上り詰めたのだ。
それにカタクリは沈黙を落とし再び私を見つめる。
来るとしたらどんな要求だろうか。全ての財宝をよこせとか、誰々を始末や情報開示だろうな。何か商品を用意しろだろうか。
「なら、ルイ。おれの妻になれ」
「は?」
「そうすれば命は奪わねえ」
つま……妻?
思わぬことに私の目は点になる。
カタクリは冗談ではないようで真剣な顔でこちらを見てくる。
「貴方って私のことが好きなの」
「お前をそばにおけばおれのことも他言される心配も薄れ、お前の力もまるごとおれ達のものになる。それだけだ」
何だ。
好きだからとかではないのか。
それはそうだ。
今まで嫌われることしかしていないし。
分かってはいてもなんだか悲しくなる。
「分かったわ、なら」
殺して、と言う前に私は大きな手の平で口を塞がれた。
同時に怒った顔のカタクリが首巻きを下げ噛みつかんばかりに私に迫った。
「そんなにおれのこの顔が怖いか」
「へ?」
「こんな顔の男を夫にするくらいなら死んだ方がマシか!」
カタクリはそう叫んで、射殺さんばかりに私を睨む。
「はあ?今は貴方の顔は関係ないでしょ」
「ならなぜおれを拒む」
「そりゃ、私だってこれでも女だから愛のない結婚なんて嫌よ!利用されるだけの結婚なんて死んでもいや!」
「なら愛があれば良いのか!このおれでも」
「当たり前でしょ!だって貴方って私の好みだし!」
一緒に怒鳴り合うとカタクリの言葉が止んだ。
その間に私は息を整える。少しでも大きく動けば相変わらず接吻してしまいそうな距離だ。
「おれがルイを愛していると言えばお前は応えるのか?」
「まあ嘘じゃないなら」
カタクリは信じられないと言うように目を見開く。
なんか怒鳴っててアドレナリン出まくりで思考が働かなかったけど。
この流れと反応ってカタクリ、もしかして私を好いていてくれているのか。
「貴方って私のことが好きなの?」
そう再び尋ねるとカタクリがビクリと怯えるように震えた。
……なにこれ、可愛いんですけど。
確信して思わずニヤニヤしてしまう。
「へえ。カタクリって私のことが好きだったのね」
「……」
カタクリは顔を染めるけど何も言わない。
だから私は少し離れたカタクリのむき出しの牙に腹筋を使い体を持ち上げてキスをしてみた。
カタクリは逃げずに目を更に見開いた。
「貴方が私のことが好きなら私は貴方と恋仲になるわ。本当に、私のことが好きなの?」
「そうでなければ、とっくに首を取っている」
「ふーん。でもちゃんと言葉で言って。言わずに頷くほど私は安くないわよ」
なんて言っても人と付き合うのははじめてだし。
言葉くらいは欲しい。
すると、カタクリはしっかりと私の目を見て愛の言葉を紡いだ。
「好きだ。おれのものになれ」
思わず口の端が緩んだ。
もちろん答えなんて一つしかない。
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