兄妹愛に

 「カタクリお兄ちゃん」

 「なんだ、ルイ」

 「カタクリお兄ちゃんの首巻きの下ってどうなっているの?」


 私はカタクリお兄ちゃん部屋でお兄ちゃんの大きな膝に座りながら知らないフリをして尋ねた。
 それにお兄ちゃんは息をのむ。


 「知る必要はない」

 「えー」


 そっけなくそう言うカタクリお兄ちゃんに私の口からは素直に残念に思う言葉が出た。


 「大丈夫だよ。カタクリお兄ちゃんがたとえタラコ唇でも、私はお兄ちゃんのことが大好きだから」


 というか、カタクリお兄ちゃんの口が裂けていることも牙があることも知っているし。
 むしろ可愛いと思うから私がいなくなる前に一回拝んでおきたいなと思った。
 もう麦藁の一味が現れるのに時間もないだろうし。

 けれど、お兄ちゃんは私の頭にポンと手を置いて頷いてはくれない。


 「悪いがルイには特に見せたくない」

 「……お兄ちゃんの馬鹿」


 私は悪態をついてカタクリお兄ちゃんの膝から降りて立ち上がる。


 「ルイ」

 「お兄ちゃんが嫌なら諦めるけど、何があってもカタクリお兄ちゃんのことが好きなの信用してよ。お兄ちゃんの馬鹿。でも大好き」


 私を信用してくれないお兄ちゃんに腹が立って、でもお兄ちゃんのことは好きでだからこそ見せてくれないことが悲しくなった。
 まあ私も秘密を知っていることを言わないから人のこと言えないけど。

 でも胸が痛い。


 私は麦藁の一味が来たときに逃げるつもりだったけど、いつの間にか少し迷うようになっていた。

 だってここから出たらカタクリお兄ちゃんに会えなくなるから。

 でも結局ここにいても兄妹だから別れは来る。

 それはお兄ちゃんのことが大好きだからこそ耐えられそうにない。だから、ここから逃げなくてはならない。


 私はそう考えると悲しくなって下唇を噛んで逃げるようにカタクリお兄ちゃんに背を向けて部屋から出ようとした。

 けれどお兄ちゃんはそうする前に私を後ろから抱きしめた。
 私の何倍もある大きな腕が大切そうに私の体を締め付ける。


 「信用している。ただおれに勇気がないだけだ。ルイ、お前もおれが大切に思っていることを信用してくれ」

 「……お兄ちゃん」


 私はお兄ちゃんへ振り向いた。
 お兄ちゃんは真剣な瞳で伺うように私を見ていた。

 ああ、やっぱりお兄ちゃん可愛い。


 「うん、お兄ちゃんを信じる。お兄ちゃん大好き!」


 だから私は満面の笑みでそう言った。

 お兄ちゃん大好き。大好きだ。

 もしカタクリお兄ちゃんがお兄ちゃんでなかったらここまで愛してくれなかっただろうけど、兄妹じゃなかったらなんて思うくらいお兄ちゃんが大好き。

 ああ。本当にもう、手遅れだ。

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