ぴえろ.v

今日はバレンタインである。
それはワンピースの世界も例外ではなく、この日は恋人たちが甘く過ごす日であると広く知られている。

それなのに。


「なんでクザンさんがいるの」

「なんでおまえはおれに会う度にそんな可愛げのないことを言うわけ?」


せっかく休みができたから会いに来たのに悲しいじゃねェの、とまったく悲しんでいる様子もなくそういう青雉クザンはおれが初等学校から家へ帰ると義母とお茶を飲んでいた。

そんな帰ってそうそう挨拶も無しにそんなことを言うおれに義母は「ユウくん、せっかく会いに来てくださったのにそんなこと言ったら失礼でしょう」とにこにこと言っておれを隣に座るように促したのでおれは義母の隣に座る。
義母はとても穏やかな人だ。これで海軍現役時代何人もの賞金のついた海賊を葬っているだなんて想像もつかないだろう。
怒ったときは怖いのかもしれないけど、おれはクザンの前以外は良い子なのでまだ怒られたことはない。


「で、ユウは元気にしてたか?」

「うん。風邪とかひいてないし。元気だよ。クザンさんは元気だった?」

「おれも風邪はひいてないね」

「そっか」


そうクザンは答えるが、おそらく海軍の仕事で風邪なんてちっぽけなことになるくらい危険な思いをしていたのだろうことはわかる。

クザンはそこまで短いスパンでいつも来てくれる訳ではないのだが、今回はいつもより期間があいた。
遠くへ行っていたか、強敵と争っているのだと思っていたが。もしかしたらもうここへは来ないのかとも思っていたからクザンがいて嬉しかった。


「ならいいけど。でも良いの?せっかくのバレンタインなのに彼女と過ごさなくて」


普通ならここで彼女はいないのかと思うところだろうけど、クザンは確実にモテるだろう。
おれでさえ誘いがかかったくらい日本よりもここは積極的な子が多いのだ。
高身長で学歴は知らないけど頭も良いし、高収入。絶対クザンは引く手あまたで男の憧れで敵だ。フリーなはずがない。

それなのにここにいるということはもしかして、そんな予定よりもおれを優先してくれたのかとおれは考え至り、それは申し訳ないやら、けれど少し嬉しく感じた。

おれが内心そんなことを考えていると、クザンはあー…と呟き、頭をかいた。


「彼女はいないけど。今日が休暇になって誘わたんで面倒くせェから逃げてきた」

「………」

「モテる男はつれェ訳よ」


そうにやりとクザンは笑った。これはモテる大人の余裕の表情だ。

おれは自分が勝手にそれでも優先して会いに来てくれたと期待していたことが恥ずかしくなり、ごまかすようにクザンを睨みつけた。なんだよ、逃げてきたって。


「なんだ、じゃあおれに会いにきたのは女の人から逃げるついでなの?」

「…んな悲しそうな顔しなさんなって。ユウに会いに行くのは日に関係なくもとから決めてたことだから」


睨みつけているおれの、どこが悲しいように見えたのか意味が分からないけど。
そうクザンはおれをあやすように少し笑みを浮かべて言うと、長い手を伸ばしておれの頭をぽんぽんと撫でた。また子供扱いをする。

おれはそんなクザンの手に噛みつきたくなったけど、もし氷になられたらダメージを受けるのはおれなので我慢した。