ノーストライク戦い
ユウの武器は海楼石が編み込まれた鞭である。
まるで生き物のように自在に動く鞭をスモーカーは十手で防ぎながらユウの隙を伺うが、なかなかユウの懐へ入り込めない。
「相変わらずお強いですね、スモーカーさん」
「テメェも鈍っちゃいねェみてェだな」
「スモーカーさんにそう言われるのは嬉しいですね」
会話をしながらも攻撃の手を緩めることはない。
2人の戦いを見守るのははじめはたしぎだけであったが、いつの間にか訓練をしていた他の海兵たちも観戦していた。
それくらい、2人の戦いは人を引きつけるものであった。
「そういえば、スモーカーさんは結婚とかしないんですか」
「あ゛ぁ!?」
ユウの戦いながらのそんな質問に、スモーカーの眉間には皺がたくさん寄った。
相変わらず脈絡もなにもないことにスモーカーの握る十手に力が入る。
「いえ、おれたち海兵は早めに結婚しておかないと時期を逃してしまうじゃないですか。だからスモーカーさんはどうなのかなと思いまして」
「そういうテメェはどうなんだよ」
人の事言えんのか?
ユウは普通に会話しながらも攻撃の手を緩めないので。
スモーカーは向かってくる鞭を交わしながらも、返答をする。
普通に考えればスモーカーの隙をつく作戦なのだろうが。
……この馬鹿の場合は何も考えていねェんだろうな。
「おれは結婚したいなあと思う相手はいるのですが。告白しても断られるのが分かっていますので、なかなか難しいですね」
「はあ?!――っっつ!」
思いもよらないユウの言葉にスモーカーは驚いて、思わず隙を作ってしまい鞭が頬をかすった。
それを見て、ユウは特に表情を変えることなく手を軽く引き鞭を戻すと、スモーカーから距離を取り、戦闘体制を解く。
どうやらもう終わりにするらしい。
それにスモーカーも煙を消すと十手を構える手を下ろした。
「これくらいにしましょうか。これからすぐに白ひげとの大戦もある事ですし」
「あぁ」
「ありがとうございます。やはりスモーカーさんと戦うのは楽しいですね」
火拳の処刑が近いので十中八九白ひげとの戦争は避けられない。
スモーカーも本部にまで来たのはそのためなので、こんなところで下手に怪我をするわけにはいかない。
だからユウは終わりにしようと言ったのだろうが。
だが、スモーカーはそんなことは今はどうでも良かった。
「オイ」
「はい?」
「さっきテメェが言っていた話は本当かよ。おれの隙をつくために言ったことか?」
苦々し気に聞くスモーカーの質問に、ユウは少し困った表情を浮かべて答える。
「好きな人がいるけど告白できないという事でしたら、本当ですよ」
「そうかよ」
「けど、大戦前には伝えたいと思っています。死ぬ可能性もありますから。……恋って難しいですね」
「………そうみてェだな」
死ぬと言いながらも、好きな人物を思い浮かべたからか。
少しだけ顔を赤く染めるユウにスモーカーは、ユウへうまく言葉を返すことができなかった。
昔からユウは恋やらそういうものに無関心だと思っていた。
女遊びにだって自分から行くこともなかったし、それなりに長く付き合っている間、ユウに恋人だってできた話を聞いたことがない。
だから、ユウに好きな女がいると知って、スモーカーはショックを受けた。
………いや、なんでショックを受けるんだ。
ユウなんてすぐに身を固めて、少しでもまともな感性を躾られれば良い。
子供でも作れば、今よりしっかりとするだろう。
この天然が治れば、スモーカーもイラつかされる事も少なくなる。
そうなればスモーカーにとって良いはずなのに、想像してもまったく嬉しくなかった。
「それでは、私はそろそろ戻ります。お手合わせをありがとうございました、スモーカーさん」
「別に構いやしねェよ」
「あっ、それとこれ。後で読んでください」
そう言って差し出された何も書かれていない白い封筒を、スモーカーは反射的に何も考えずに受け取った。
スモーカーが受け取るとユウはとても嬉しそうに微笑み、「ではまたお話しましょうね」と言うと、たしぎへと一度声をかけてから演習場をあとにした。
スモーカーはユウが去ってから、後で読むように言った言葉を無視して受け取った封筒の封を乱暴に破りあけて中に入っていた便せんに目を通す。
内容はこうだ。
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スモーカーさんへ
ずっと前からスモーカーさんのことが好きでした。
結婚してください。
ユウより
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スモーカーは怒涛の勢いで、ユウを追いかけた。
再びユウがスモーカーに殴られるまであと×秒。