ノーストライク

スモーカーが久しぶりに本部に来てから少しして。
建物内の廊下をたしぎを連れて歩いていると、目の前から良く知った男が歩いてきた。


彼はスモーカーの同期であるユウだ。


ユウはスモーカーがユウに気がづいたすぐあとに遅れてスモーカーに気がつくと、嬉しそうに微笑んだ。


そんなユウへスモーカーは前から決めていたので、殴るために駆け足で近づくと。

何を勘違いしたのかユウは両手をまるで抱擁を待つかのように広げたので、スモーカーの眉間には思いっきりシワが寄る。
その形相だけで人を殺せそうだ。


「気色わりィことするわけねェだろうが!」


スモーカーは微笑んで待っていたユウの頬を力の限り殴った。


ユウはスモーカーの拳をまともに受けたので、その反動で床に倒れる。


スモーカーは本気で殴ったつもりだが。殴られたユウは、いたいいたいと言い笑いながら殴られた箇所を手で押さえている。

そういえばユウは昔から痛みに鈍かったなと、どうでもいい事をスモーカーは思い出した。


「久しぶりに旧友と会いまして、しかも相手が駆け寄ってきましたら抱擁するのかなと思うでしょう?」

「んな常識はねェよ。だいたいてめェとやっても気色が悪いだけだ」

「えー。ならたしぎちゃんとなら良いですか?」


そう言うとユウはスモーカーへと追いついたたしぎに目線を移したので、たしぎは上司であるユウの申し出にあたふたとする。


「へっ!?わっ、私ですか」

「殺すぞ」


戸惑うたしぎと対照的に、スモーカーはじとりとユウを睨むので、ユウはそんな様子の2人が楽しくて笑った。


「殺すだなんてあいかわらず酷いですね。怖い顔しないでください。スモーカーの部下に手を出したりしませんよ。…けど、たしぎちゃんは可愛いですからね。もし上司の副流煙に我慢できなくなりましたらいつでもきてください。歓迎します」

「………喧嘩なら買うぞ」

「?そうですね。スモーカーさんと会うのも久しぶりですし、手合わせでも致しますか?」


スモーカーは怒っているのに、ユウはまったく意に介していない。
それどころか嬉しそうにそう申し出るので、スモーカーは少し戸惑った。

こいつといると、ペースが乱れる。



「……手加減はしねェぞ」

「わあっ。楽しみです」


ならさっそく演習場へ行きましょうか。

笑顔でそう言い、ユウはクルリとスモーカーとたしぎに背を向けて、演習場へと歩を進めたので。

スモーカーは1つ舌打ちをして、たしぎはおろおろとしながらもあとに続いた。