ヒトモジ違い(煙と天然)

それはスモーカーがまだ訓練兵時代の事だ。
スモーカーが訓練が終わりに帰宅のために着替えていると、同じく隣で着替えていた同期のユウが声をかけてきた。


「スモーカーさん、おれ思ったんです」

「あァ?なにをだ」

「スモーカーさんの名前、モをトにしたらストーカーですね」


………なにを言ってんだこいつ、とスモーカーは思った。


ユウでなければ確実に怒鳴りつけていただろう。


けれど彼のこの突拍子の無い発言にすでに慣れてしまっていたスモーカーは、ユウにたとえ怒鳴っても怒られた意味が分からずにただキョトンとするだけだと知っていたので、眉間に深く皺を刻むだけにした。


「何が言いてェんだ、テメェは。」

「いや、ただ気がついたので誰かに伝えたくなりました。」


……思いついたからといって、それをワザワザ本人に言うか?

スモーカーには無表情で淡々と言うユウが何を考えているか分からなかった。


…おそらくは何も考えていない、ただの馬鹿なのだろうが。

ユウはそんな不機嫌な様子のスモーカーに気づかないまま言葉を続けた。


「でもスモーカーさんがストーカーって似合わないですね。どちらかというとストーカーされそうです」

「おれはんなことするような女には近づかねェよ」

「そうですね。スモーカーさんは誰かにストーカーされても気がつかなそうです」

「………テメェは喧嘩を売ってんのか?」

「え?売っていませんが。」


地をはうような声で尋ねるスモーカーにユウは不思議そうに首を傾げる。

まったくかみ合わないばかりか失礼なことを言うユウにイラついて、元々そこまで気の長くないスモーカーは衝動のままユウの顔面に一発拳を入れたくなった。


だが、スモーカーはユウにはまったく悪気が無いのだと知っているのでいつも怒るタイミングをはかれない。

スモーカーはその歯がゆさに悶々として、いつの間にか着替える手が止まっていた。


そんなスモーカーの様子にやはり気がついていないユウは、シャツの最後のボタンを締めるとカバンを肩にかけた。


「じゃあおれは着替え終わりましたので先に帰ります。また明日よろしくお願いします。無いとは思いますが、帰りはストーカーに気をつけてくださいね」


人の着替えを邪魔するだけ邪魔して先に着替え終えたユウは「じゃっ」と片手を上げて部屋から出て行った。


言いたいことだけ言って帰りやがった。………あの野郎………!


スモーカーは少しの間ユウが出て行った扉を見つめた後、ユウのロッカーに蹴りを入れてから着替えを再開した。
明日ユウに会ったら一発殴ると決めて。







それから数年後、スモーカーが大佐となり麦藁海賊団を追っている時。スモーカーの元へ本部にいるユウから連絡がきて「スモーカーさんって麦藁のストーカーみたいですね。あの時は似合わないって言いましたが、結構合っていると思います」と言ったので、スモーカーがユウを次会ったら殴ると誓ったのはまた別の話。