ぴえろ2

おれが家で留守番をしていると、おれをホームレスから助けてくれた恩人である青雉クザンが家にやってきた。


「……また来たんだ」
「なにその来ちゃいけなかったみたいな言い方。傷付くじゃねぇの」


おれはムスッとした表情でクザンを出迎えた。
ちなみに現在おれが留守番なのは専業主婦の義母は買い物に行っていて、海軍に所属している義父は仕事中であるからだ。
同じ海軍なのにクザンは仕事では無いのだろうか。


「……クザンさん。また仕事をサボってわざわざ来たの?」
「今日は休暇を使って様子見に来てやったのに、それはないんじゃねェの?もっと嬉しそうな顔しなさいよ」


クザンはそう言うと肩をすくめた。
どうやらクザンは今日は休みだったようだ。
彼はおれが養子に引き取られてから、こうやってたまに顔を見せてくれる。

おれはクザンが来るたびに表情を出さないように頑張っている。だって、気が緩むと顔も緩んでしまいそうになるのだ。緩んだ顔ではまるでおれがクザンが来てうれしいみたいじゃないか。

おれはかなり高い位置にあるクザンを見上げてから、クザンの服の裾を掴むと彼を家の中へと引っ張った。
それにクザンは「服が伸びるでしょうが。」と言いながらもついて来てくれる。




「ユウは最近元気にやってる?」


クザンをリビングに座らせてお茶も出すと、テーブルを挟んで目の前に座ったおれにそう尋ねてきた。


「うん。最近は義父さんから剣術を習ってるし、学校も楽しいよ」
「そうか。そりゃ、良かったな」


クザンはおれの答えに小さく笑った。

おれを引き取ってくれた夫婦はそれなりに裕福だったのでおれは現在近所の初等学校に通っている。彼らへのこの恩はこのまま日本へ帰れないで、おれが稼げるようになったらきちんと返したいと思う。


「学校じゃユウはどんな事をしてんの?」
「最近は……自分の将来の夢についての発表をすることになったよ」
「へぇ。ユウは何かなりたいもんでもあんのか?」


おれは自分で話を振っておきながらクザンの質問に少しだけ思案した。この年で、と言っても見た目は子供だが、素直に将来の夢を言うのは少しだけ恥ずかしい。
おれはクザンをちらりと見てから口を開いた。


「………海賊になろうかな」
「なんでおれを一度見てからその結論になったの。希望なら今からでも捕まえてあげるけど」


クザンはあまり表情は浮かべていないが、右手を氷に変えて低い声でおれを脅すように言った。幼児虐待だと思う。

ただ、なんとなく言っただけだし。


「冗談だよ。一応、学校では海軍って言うつもりだけど。まだおれは将来何になりたいかとか分からない」
「へぇ、ユウは海軍はイヤなの?」
「……うーん。あまり」


日本に帰れないならクザンの下について助けるというのも嫌じゃないけど、クザンは原作の二年後には海軍からいなくなるのだ。仮に海軍になっても、おれが成長してクザンに追いつくには時間が無い。

おれが強ければ早く昇進できるのだろうが。一応義父から教わって鍛えてみてはいるけど、やはりおれは弱いと思う。

スモーカーみたいに強くなれたら、いいのに。そうしたらクザンはおれを連れて行ってくれるだろうか。


「クザンと一緒にいられるなら海軍でも良いけど………」
「へ?」


クザンはきょとんとおれを見た。
本当は心の中で呟くつもりが小さな声になって口から漏れてしまって、それに気が付いたおれは自分の顔が熱くなった。
聞こえたのか、あー、もうばかっ!


「おれは何も言ってねぇよっ!!勘違いするなよなっ」


おれが顔を熱くして自分でも分かるくらい理不尽に怒るとクザンは呆気にとられた後、クツクツと笑った。


「そうだなァ。ユウが一生懸命がんばればおれと同じ職場に来られるんじゃねェの」


クザンはそう言うと長い腕をおれの頭へとのばし、わしゃわしゃと撫でた。
だから、どうせ同じ職場に就けてもクザンはいなくなるんだろ。クザンはうそつきだ。

けど、それより……


「なでるなっ、おれを子供扱いするなよ!」
「はいはい」


おれが撫でられながらクザンを睨みつけて怒ると、クザンはそう微笑んで言いながらも撫でるのをやめなかった。