提案

「おい、ジョージ。おまえミリア・ファストが好きなのか」


 対抗試合の第三の課題が迫るある日。
 誰もいない夕日が差し込む空き教室で二人でバグマンについて話していた時、急にフレッドはそんなことを俺に質問しきたから、俺は顔だけを目の前にいるフレッドに向けて喉が詰まったように声が出せなかった。


 「んな、わけないだろ」

 
 心構えができていなかったせいで自分でも分かりやすいくらいに俺は声を震わせてフレッドに言ったが。やっぱりフレッドは俺の言葉を信じてなんかいないようだ。
 フレッドはハアっとどうしようもないものを見るように俺を見てため息をついた。


 「よりにもよってミリアかよ。ジョージ」

 「だから、ちがうって言っているだろ。だれが、あんな無愛想女」

 「おいおい、俺に嘘が通じると思っているのか。何年お前と一緒にいると思ってんだよ、おふくろの腹の中からだぞ」

 「嘘じゃねえ!」

 「はいはい。それで、いつからだよ、兄弟」


 俺の言うことなんて一つも聞いていないフレッドは俺に尋ねてくるけど、俺は黙って睨み返す。
 するとそんな俺に焦れたのか冷やかしていたフレッドも真剣な顔になった。


 「ジョージ、お前の気持ちも俺は分かるけどな。このままだといつかお前、後悔するぞ」

 …そんなこと、俺が一番分かっている。
 俺の気持ちが分かると言っているが、フレッドはなにも分かってなんかいない!


 「うるさい!ならどうすれば良いんだよっ!認めたら。俺は、諦めるって選択肢しか残っていないじゃないか。初めから終わっている。俺はミリアから嫌われているからな!」

 「ジョージ」

 「もし好きだと、認めても、どちらにしてもどうしようもない!俺だってなにも考えていないわけじゃない。ふざけるなよ。なんで、あんなやつなんだよ!!」


 そう怒鳴り散らした俺にフレッドは目を見開いている。
 ジョージに言われなくても分かっていた。
 もう、認めてやるさ。俺があいつのことを好きなのを。

 けど、改めて声に出してみるとどうしようもなさを再確認してしまい苦しくて、いつの間にか芽吹いていたものに殺されるのではとさえ思う。

 だって、気がついたときにはもう相手からの感情なんてマイナスだ。自分の巻いた種、自業自得だってことは痛いほど分かっている。
 本当は気がつきたくなかった。そうすれば、こんな思いしなくて済んだのに。
 もう、認めないことが苦しい。


 もしも過去にもどれるなら、俺は昔の俺を殴っているだろう。
 もしも俺が、ミリアに嫌われないようにしていたなら、ミリアは俺を嫌わないでいてくれたのだろうか。
 けど、もしも、なんてそんな話、ありえない。

 怒鳴ったため呼吸をするように上下する俺の肩へと、フレッドは俺を冷静にさせようとするように両手を置いた。


 「…落ち着けジョージ。もし、俺がおまえと同じようにミリアを好きになっていたら、ジョージお前と同じになっていたと思う。けど、俺は違う。だからこそ、別の立場から見ての助言だけど」


 


 「なあ。ジョージ、俺たちミリアに謝ろう」

 「謝る?」


 フレッドの言葉は熱くなっていた俺の頭にすぐに入って来なくて、俺はフレッドの案に呆然として目を見開いてフレッドを見た。
 フレッドは真剣な表情で言葉を続ける。


 「そうだ。俺もミリアには昔やりすぎたと思ってる。まあ、俺たちはいつもやりすぎだけど…。それでも、あれは違った。ただのいじめだったと思う。ジョージだってそれについて悪かったと思っているんだろ?ならいいじゃないか。謝ろうぜ」


 ミリアを思いすぎていて頭からすっぽり抜け落ちていたその提案に俺は心が少し冷静になった。

 謝る。確かに俺は、そんなことも忘れていた。確かにまずは彼女に俺たちは謝らなければいけない。スリザリンとかそんなの関係なく。
 けど。


 「謝って許してくれるわけないだろ。ってかまずミリアは話なんか聞こうともしない」

 「いいや、ジョージ。それについても俺に案がある。あの!ハッフルパフのディゴリーのやつを観察していて分かったんだが。あいつやたらいつもミリアに話しかけてるだろ?」


 フレッドはニヤリと笑う。

 確かにディゴリーは何度も塩対応されながらミリアによく話しかけている変わり者だ。ハッフルパフ生の話では昔困っていた時にミリアに助けられたことを恩に思っているらしい。
 ミリアに好意を持っているとも噂があるが、ダンスパーティや第二の課題の人質がチョウ・チャンだったことも考えると違うのだろうけど。


 「それでだ、ミリアはセドリックに話しかけられるとほとんどは歩みを止めずに返事をするだけ。手や肩を掴めば確実だけど、それはミリアは嫌いみたいだからな。…最終手段はそれしかないが。そんな中、一つだけ高い確率で立ち止まる時があった」


 フレッドはもったいぶって間を空ける。けれど、そんなフレッドの言葉を俺は夢中で聞いていた。
 いつの間にかフレッドはミリアをよく観察していたらしい。本当にいつの間にだろう。お互いのことを知り尽くしているつもりでいても相手の知らないところはやはりある。


 「どんな時なんだ?フレッド」

 「それは、ミリアが誰かと一緒にいるときさ!誰かといるときミリアはいつも一度立ち止まる。だから俺たちはそういうときに話しかけてミリアが逃げられないように道を塞げば、話くらいは聞かせることができるだろう!」


 逃げ道を塞ぐ…。

 なんだか、それだと謝るというよりただ嫌がらせをしているみたいじゃないか?
 一瞬、俺はフレッドがただミリアに嫌がらせをしたいのではと疑ってしまったのは別におかしくはないと思う。

 けど、確かにそうでもしないとミリアは俺たちの謝罪なんて聞いてはくれないだろう。謝罪をするのに嫌がることをすることになっても。俺たちにはそうするしか。

 覚悟を決めなくてはいけないのかもしれない。
 例え、この恋が叶わなくても自分のしたことを謝罪すべきだろう。

 


 「そうだな。できるなら謝りたい。俺も」


 それは自己満足かもしれないけど。これは自分のためだけなのだろうけど。

 俺は謝れるのなら、彼女に謝りたい。
 ちゃんと謝らなければいけない。


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