love is blind
(セドリック視点)
僕は三校対抗試合の第三の課題に参加はしたけれど、ミリアに言われたとおりに優勝するつもりはなかった。
ここまで優勝するために努力をていたし、僕に期待してくれている友人や両親に申し訳ない気持ちはあったけれど。
僕はそれでもミリアを裏切ることはしたくはない。だから優勝を目指すよう課題をがんばりはしたけれど、実際に優勝するつもりはなかった。
だから優勝の証であるゴブレットまでもう少しと目の前にして。僕に一緒にゴブレットを掴もうと誘ってくれたハリーに悪いと思いながらも僕は直前で手を触れることをやめた。
……ごめん、みんな。
ゴブレットを目前にして僕は心の中で自己満足の謝罪をした。
ハリーが一人ゴブレットを掴むと、ゴブレットに触れたハリーは引っ張られるようにしてその場から消えた。
それに僕は驚いた。
なにが起こったのかはじめ分からなかった。先ほどまで隣にいたハリーが今はゴブレットとともにいない。
慌てた様子の先生たちがすぐに現れたが、僕は何もできずにただ何が起こったのか現れた先生たちに尋ねたけれど答えはなく、何もできないままその場を避難させられた。
『試合が終わった後に私が言わなくとも貴方は分かると思います』
ミリア。
君はこれを知っていたのか。
迷路の外へ避難して冷静になった頭で僕はミリアのことを考えた。観客席へ彼女を探すように目を向けたが、当たり前だけど見つけることはできない。
けれど、ミリアは試合を観に来ると言っていたからあの中にいるはずだ。
今、彼女は何を思っているのだろう。
ハリーには一度は汚い感情を持ってしまったが、それでも自分より年下で後輩で一緒に優勝しようとしてくれた心優しい彼を僕は心配した。僕が手を伸ばしていれば、彼の助けになれたのだろうか。
じっと僕は祈りながら彼が消えた迷路を見つめていた。
ハリーはしばらくしてから怪我をした様子で戻ってきた。
僕は心配だったけど近くに寄ることができなかった。
話しかけることができないままハリーはムーディとどこかへ行ったので、そのときは僕は教授が悪い人だとは知らなかったから、彼と一緒なら大丈夫だろうと安堵した。
次の日、僕はミリアに二人で話をしたいと頼んだ。
少し断られるかと思ったがすぐに了承の言葉をもらうことができた。おそらくミリアも僕から話を聞かれることは分かっていたのだろう。
本当は、僕は洗いざらいすべてのことをミリアに尋ねたかった。分からないことだらけだった。知らないことというのは不安なことだ。
けれど、僕は話を聞く前に混乱する頭を無理やり冷やして、ミリアは僕に知りたいことを教えてくれるのだろうかと考えてみた。
そもそも、どうして彼女がゴブレットがポートキーであるのかを知っていたのか。
彼女はスリザリンだからたまたまその情報を耳にしたのかもしれない。
でも、もし最悪、ミリアがゴブレットを仕組んだ可能性だってある。
もし違っていたら、ミリアは僕を助けてくれた恩人だから疑いたくはないけれど。ダンブルドアさえ出し抜いたほどだ。ゴブレットのことは相当な機密事項のはず。
それをなんで知っているのだろう。疑いたくはないが、彼女がゴブレットを仕組んだことに関係していないのなら、どうして僕だけに教えたのだろう。ダンブルドアに伝えればこの事件さえ防げたというのに。ハリーが連れ去られるのを防ぐつもりはなかったのだろうか。
きっと、聞いたとしてもミリアはきっと教えてはくれない可能性のほうが高い。教える必要が彼女にはないから。
ダンブルドアに話すと脅すように言えばミリアは話してくれるかもしれないけれど。ミリアに嫌われ幻滅される、そして、彼女を悲しませるという選択肢を僕はなにがあっても選びたくないから、彼女から聞き出すのはおそらくできない。
だから自分で真相を考えるしかないけれど、材料が圧倒的に足らず考えてもどうしても分からない。真実を知りたい。でも。
僕は自分の考えがごちゃごちゃなまま、待ち合わせ場所の湖畔でミリアを待っていた。
ミリアは約束の時間通りに来た。
現れたミリアは夕日を浴び幻想的に照らされ、まるでここだけが別世界のようだと僕は思った。
僕だけを見るミリアを、初めて出会ってから成長してもその凛とした瞳はあの日から変わらないミリアを改めて見て。僕は、自分が考えていたことがどうでも良くなった。
やっぱり僕はミリアが好きだ。好きという言葉じゃ足りない。
ミリアが悪の可能性だってある。それでも。
僕は彼女から真実を聞くのをやめた。
僕はミリアを信じる。
疑うことをやめるのは怠惰なのかもしれないけれど、僕はずっとミリアを見てきたのだ。ミリアが悪い人でないことはよく知っている。
いつもはスリザリンらしい冷たい素振りをしているけれど、彼女の心は温かい。
僕はミリアへとはじめて告白した。
少しは僕の気持ちを知っていたかなと思ったけれど、ミリアは本当に驚いていたから知らなかったらしい。本当だったらそのまま返事が欲しかったけれど、これでは断られるだけだと僕はすぐに察した。
だから
知ることができないのなら、せめて利用させて。
きっと僕が尋ねなかった代わりに今なら簡単な頼みなら聞いてもらえると思ったから、ミリアへ『どうすれば僕のことを好きになってくれるか』と緊張ながらも質問した。
結局、ミリアはその質問には答えてくれなかったけれど、彼女は僕を友人としてくれた。
思ってもみなかった収穫だった。
ミリアはその提案をして、不安そうに僕を見上げてきたけれど、僕は一瞬嬉しすぎて返事をすることができなかった。
やっと、ずっとずっと夢にみていたのだ。ミリアが僕のことをちゃんと見てくれる。
僕は必死にミリアに嬉しいと伝えると、ミリアは安心したように。僕へ微笑んでくれた。
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