my resolve

 「分かった。優勝は諦めるよ」


 セドリック返事は驚くほどに予想と反してあっさりとしたものでした。

 断られ次第、杖を取り出すつもりでしたのに。
 ……いえ、そんなことにならなかったことは幸いですが。驚きました。


 「セドリック、貴方は優勝を諦めても構わないのですか?」

 「諦めてほしいと頼んだ君がそれを聞くの?」


 セドリックは冗談を含んだ声色で穏やかに質問を返してきました。

 私でなくとも、こんなに簡単に頷かれましたら疑問に思うのは当然だと思います。だって彼はあんなに優勝を熱望していたのですから。


 「確かにお願いしましたのは私ですが。まさかセドリックが受けて下さるとは思っていませんでした」

 「本当は悩むまでもなかったよ。さすがにクィディッチだったらチーム競技だから少し迷ったかもしれないけど。これは個人競技だからね。おまけに代表選手は2人いるから責任は重くない。しかもこの頼み事が僕のためを思ってくれたからなら断る理由なんて何もないよ」


 それは私の言葉を信じて下さっているという前提なのでしょうが。


 「セドリックはそんなに、私の言葉をあっさりと信じてしまって良いのですか?」

 「信じているというのとは違うかな。」

 「違うとは?」

 「僕は嘘でも構わないと思っているからね」


 そこでセドリックは言葉を区切り、困惑する私へと優しく微笑みました。


 「ミリアの助けになれるのなら、僕は君が望むことを何だって叶えたいよ。だからそれができるのなら嘘だろうと関係ないな」


 そうセドリックはまっすぐと答えて下さいました。


 ………。


 なんてセドリックはお人好しでしょうか。


 私は、セドリックからそう言われて。まず先に感じたのは申し訳ありませんが恐怖に似た感情でした。

 それは私が好意的に思われることに慣れていないからでしょうか。

 私には彼が何を考えているのかまったく分かりません。


 そもそも。誰にでもこのように善人でしたら、セドリックは大丈夫なのでしょうか。
 善人でない私には善人が嫌いではありませんが、怖いです。


 「ミリアの頼みは優勝をしないことだよね」

 「はい。課題中にゴブレットを触らないでいただければ嬉しいです」

 「なら課題には参加しても良いのかな?」

 「それは構いませんが」


 迷路の外からクラウチJr.が狙ってきますが。それでセドリックが死ぬようなことはないでしょう。
 彼も競技が中断するようなことはしないでしょうし。

 そう判断しましたので私は頷きました。


 「そっか。なら僕は参加だけして優勝はしないよ」


 セドリックは何でもないかのように言います。
 


 「ミリアは今日の試合を観に来てくれる?」

 「一応は行くつもりです」

 「良かった。優勝はしないけど頑張るから。だから君に観ていて欲しい」


 セドリックはすっきりとした笑顔で優勝はしないと宣言します。

 まさか、こんなに呆気なく話が進むとは思ってもいませんでした。






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