I want to help you

 (セドリック視点)



 第二の課題の後からミリアは元気がない。

 僕はチョウからミリアが本当は人質に選ばれていたと聞いた。

 同時に僕は彼女が人質を断ったことを残念に思うより先に、僕が彼女のことを好きなために人質候補に挙がってしまったことに申し訳なく思った。

 そして、その為にただでさえ好かれてなんかいないのに、余計にミリアから嫌われてしまうのが怖い。

 断られたことを残念に思う気持ちが少ないのは、彼女が断ることを当たり前だと思っているからだ。
 情けないことだけど、ミリアが人質役を喜んで引き受けてくれるだなんて想像できない。逆に不機嫌になっていたり怒っている可能性の方が高い。
 時期的にも今、彼女が元気がないのは僕のせいかもしれない。


 断られたことにそこまでショックは受けていないけど。
 ただ僕は申し訳がなく怖かった。


 だから、僕はミリアに謝るために通りかかったバックスにミリアの居場所を聞いた。
 彼はどうでも良さそうな様子で簡単に今ミリアがいる場所を教えてくれた。

 そんなミリアに対してどうでも良さそうなバックスに僕はいつも内心安堵している。
 一番ミリアと仲が良いのはバックスだから。彼がミリアを好きになってしまったら非常に困る。





 バックスにミリアが塔の上にいると教えてもらってから塔へと行ってみると、確かにミリアは塔の上から窓の外を眺めていた。


 ただ、衝撃的だったのは。

 ミリアが涙を流して泣いていたからだ。

 ミリアが泣くところなんてはじめて見た。
 普段は気の強いミリアの涙は驚きと動揺を僕にもたらし、僕は何かを考える前にミリアへ声をかけた。

 すると、ミリアは驚いたように僕を見て、すぐに嫌そうに眉をしかめた。

 ミリアから嫌われていることは分かっている。

 でも、それでもただ、僕はミリアが泣いてしまうほど辛いことがあるなら、助けになりたいと思う。ミリアをどうしようもなく守りたいと思った。


 けれど、結局僕は何もできなかった。
 ミリアは少しの会話をした後、一度も僕を頼ることもせずに塔から去ってしまった。



 一人残された塔の上で、これがバックスなら頼ってもらえたのだろうかとそんなことを自虐的にも想像してしまう。

 窓から入ってくる刺すような冷たい風をミリアが去って行ってから初めて感じて。そういえば握ったミリアの手も冷たかったなと思い出した。

 ずっとここで泣いていたのだろうか。


 泣いていた原因は僕ではないと言われて安堵した。たしかにミリアが僕を理由に泣くことなんてあり得ないだろう。
 けど、それならなおのこと力になりたかった。



 ミリア、僕は君のためなら何でもできるよ。

 低学年のときは恋心に気が付けなかったけど。今はそれだけ、ミリアのことが好きなんだ。

 だから君が悲しんでいると僕もつらい。

 君の力になりたいよ。

 差し伸べられればいつでも僕は君の手を掴むから。



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