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 スチュワートと話をしてから日が経ちましたが、やはりどうすれば良いのかが分からなくて私は迷っています。


 ずっと、私は原作の通りに行動することが最善だと信じていました。


 いえ、現在でもそう思っています。

 私ははじめこの世界に生まれて原作を変えないと決心する前は、一応未来の知識を生かしてより良い方向へ話を進める方法を考えました。

 セドリックを死なせない方法ですと、例えばポリジュースでセドリックに変わり最終試合に忍び込む事。
 これはおそらく入場する前に気づかれます。ゴブレットにもなされていましたし、それくらいの警戒は行われているでしょう。


 魔法による試験の妨害。
 試合中は各教師が選手のいらっしゃる迷路の周りを守っていますので、私程度の魔法技術では無駄に終わりますね。


 それ以前にこのセドリックを助けることだけを行う2つの方法は上手くいきましても、ハリー・ポッターだけがヴォルデモートと会うので彼と会ったという信憑性も欠けますし。
 セドリック……誰かが死ぬところをハリー・ポッターは来年度のために見なければいけません。
 それはあの誰かの死を見なければ見えない生き物を見るためだけでなく、はじめて見た死がシリウスでは衝撃が強すぎることへの配慮もあります。
 人の死で成長するなんて虫ずの走る事ですが。
 大切なことだと思います。


 他にはダンブルドアに相談……ですが。私は何を考えているのか分からない彼を信用することができません。
 彼が私と同じで未来を知る人である可能性が無いとはいえません。
 もしそうでしたらそれでも彼は未来を変える気はないようです。

 だって名前は忘れましたが過去へ戻ることのできる砂時計があるはずですのに、対ヴォルデモートの為にまったく使われないのは不自然です。

 理由は普段は厳重に守られているためかもしれませんが。私は生徒が勉強に励みたいからという理由だけでそんな大それた道具が用意されたというのも不思議に思っています。

 判断材料の少ないことでこれは私のただの想像です。
 けれどもし仮説が当たっているのでしたら、ダンブルドアと私は同じ考えなのかもしれないと思いますとすごく嫌ですが。

 とにかく彼は信用できません。


 それ以外にもあらゆる方法を考えましたが、結局未来を変えた時の不確定さに私は原作を守ることにしました。
 下手に未来に逆らうことは新たな犠牲を生むと考えていましたし、今も考えています。


 けれど、それが悪い道である可能性がありながらも自分の選びたい道を選べるとしましたら。

 ……そもそも私は、いったいどうしたいのでしょうか。
 私の望むようにとスチュワートはおっしゃいましたが。私の望んでいることとは?

 分かりません。

 そんな簡単な問いについても私はすぐに答えが出せませんでした。


 きっと。
 私は後悔のない、心穏やかに人生を送りたいと考えているのだと思います。

 8歳のあの日にセドリックと出会わなければ。
 彼が私を慕って下さらなければ、彼のことをよく知らなければ。

 私は心穏やかなまま、彼が死んでも罪悪感を覚える事もなかったのでしょうね。

 彼が良い人であるのが悪いです。






 そんなことを悩み考えていた、第三の課題までまだだいぶ日にちのある日。

 大広間で食事をしていると、ハッフルパフのテーブルで食事をしているセドリックが目に入りました。

 彼は楽しそうに同じ寮の仲の良い方たちと話をしています。
 それは彼がいるといつも見られる光景ですが、その日はなんとなくその様子を眺めてしまいました。


 彼はとても幸せそうに笑っています。


 あと、少ししたらこれを見ることもなくなるのでしょう。


 セドリックが死にましたら、今一緒に笑っているお友達の方々はどれだけ悲しむのでしょうか。


 そんなことを考えていますと。
 ふと、セドリックは私の視線に気が付いたようで、パチッと目が合いました。

 彼は私が見ていたことに驚いた表情を浮かべますと、すぐに私へ人好きする笑顔を向けてきました。


 ……本当に愛想の良い方ですね。


 ですので私はまるで気が付かなかったようにセドリックから目をそらして、目の前に並べられている料理を見ました。

 ソーセージやオムレツ、クロワッサンや色鮮やかなサラダなどたくさんの料理がありましたが、もう食欲はわきませんでした。


 私は席を立ち、大広間をあとにしました。




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