correct or incorrect?

 「君は、正しい事にこだわっているようだけど。正しい事が正解なのか?」

 「え?」


 それは思いもよらない、私が想像もしていなかった返答でした。
 スチュワートは淡々と話を続けます。


 「何に迷っているのかは知らないけど。正しさにこだわる必要はないだろ。たしかに正しくない道は責められたり、自分であれ他人であれ傷つけるかもしれない。けど、それでもそれは自分の選択だ。ミリア、君が望むように選べばいいだろ。君の人生なんだから」

 「私の…望むように、ですか」

 「あぁ」


 私の、私が選択をしても構わないのでしょうか?

 完成された物語を壊すことになっても?
 正しい答えが分かっていますのに?


 「仮にその選択で、スチュワート、貴方自身や貴方の大切な人が死ぬことになったとしても。貴方はそれで良いのだと思いますか?」

 「もちろんそうなったら君を責めるかもしれない。それだけではなく、もしかしたら君を殺そうとするかもしれないな。けど、俺がなんと思おうがミリア、君の選んだ道だろう。一々そんな事を気にする必要はあるのか?」


 スチュワートはセドリックが私を許すと言った時のように、まっすぐと答えました。

 彼もその言葉に嘘はないのでしょう。


 そしてスチュワートの言葉から、同時に気がつきました。


 運命を変えても、変えなくても誰かに責められるのは同じです。誰かが死んで、その代わりに誰かが生きても、その逆も変わらず誰かを犠牲にします。


 私はそんなことを、そんな当たり前の事をスチュワートの話を聞くまで考えていませんでした。


 原作を変える事は考えたことは何度もあります。
 けれど、ハッピーエンドで終わらせるにはどれも危ういものだと思い、除外し、諦めていました。


 ハッピーエンドにこだわらない選択肢。自分が望む選択肢。


 そんなことに、スチュワートの言葉ではじめて気がつくなんて。


 ………とはいえ、やはり原作を変えるのは簡単に選べることではありませんが。

 原作を守らなければならないという正義感がありました。
 いまさらそれに反するのは恐ろしいことに思えます。


 そもそも私は、好きに生きられるとしたら何をしたいのでしょうか。


 「スチュワート、貴方は大人ですね。17歳だなんて思えません」


 私は一度思考を中止して、スチュワートを褒めますと。スチュワートは少しだけ困った様子で眉を寄せました。


 「……君に言われたくはないけど。けど、もしそうならそれはミリアの影響だろうな」

 「私、ですか?」

 「ああ、君は昔から大人だったから。いつも凛としている君にこうなりたいと憧れていたんだよ、俺は」

 「は?えっ?」


 それは思ってもみないことで、私の口からは思わず間抜けな声がでました。


 「だから、俺が大人のように見えるなら。それはミリアのおかげだ。ありがとう、ミリア」





 私は、スチュワートの言葉にどうしていいか分からなくなりました。
 こんな風に憧れていたなど、前世でも今世でも言われるのははじめてです。

 私に憧れるだなんて、そんな。どこで道を踏み外してしまったのでしょうか。


 「お礼を言われる要素なんて私には無いです。………それに、お礼を言うのは私の方です。ありがとうございます、スチュワート。貴方のおかげで私は他の見方に気付かされました」

 「そうか。なら、良かった。君の力になれたのなら嬉しいよ」


 スチュワートは珍しく、上辺だけではない笑みを浮かべました。





.

[ 43/179 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]