top of the tower3

 「僕は君を嫌ったりしないよ」


 セドリックはまっすぐと私を見て断言しました。


 「ダンスパーティに誘った時は、悲しくて君には申し訳ないことをしてしまったけど。僕は君を嫌うことはできない」


 これだけ冷たい対応をとられていても嫌いにならないだなんて。


 本当に、彼は馬鹿です。


 その優しさが貴方を死に追いやるのですよ。
 もし、貴方が悪い人ならハリー・ポッターは貴方を助けて一緒に優勝しようなどとは思わなかったのですから。


 「もし、私が貴方を殺すために杖を向けても。それでも嫌いになりませんか?」

 「そうだね、嫌いにならないよ。嫌いになれない」


 言葉が嘘ではないと言うように、セドリックはまっすぐと私を見て答えました。
 これは彼の本心なのでしょう。


 「なぜ、あなたはそんなに…。理解できません」


 普通の感性なら私を嫌うはずです。

 私が…私の考えていることを言えば彼は私を嫌うに違いありません。
 もういっそのこと言ってしまいたいです。

 もちろん言えませんが。


 「ねぇ、ミリア。僕とミリアがはじめて会った時の事覚えている?」


 セドリックの質問に私はすぐに頷きました。

 思い返してみますと、あれが間違いのはじまりでした。
 あのときセドリックと会わなければこんなことになっていませんでしたのに。


 「あの時、僕は独りで死んでしまうと思っていた。実際あそこは子供には危険な場所だったし、君がいなければ危なかっただろうね。だから君にはすごく感謝しているんだ」

 「私がいなくとも貴方は無事にノクターン横丁から帰ることができました」


 原作では彼は生きていたのです。
 つまりあのとき私がいなくとも助けられたのでしょう。

 たまたま助けてしまったのが私だっただけです。


 私の言葉にセドリックはそうだね、と頷きました。


 「そうかもしれない。けど実際に助けてくれたのは君だった。助けてくれた君は子供心からしたらまるで天使のようだったよ」




 ……………天使、ですか。



 こういう事を普通に言うので欧州の方は…。


 もともと日本で育っていた私としてはなんとも気恥ずかしくなる単語です。
 何より私に似合いません。


 「天使、ですか」

 「うん。それくらい君はキラキラと輝いて見えた。それにね、それだけじゃない。君は気がついていないだろうけど、僕は君にたくさん救われたんだ。ずっと親に期待されていることが嫌ではないけどつらかった。けど、君に少しでも近づくためだと思えばつらくなかった。ずっと僕はなにをしても自分に自信が無かった。自分に自信がない事に気がつきもしなかったんだ。そんな僕に君はそれを教えてくれた。」


 だから君に感謝をしてもしきれない。

 セドリックは優しげな、人に好かれるような笑顔を私に向けました。


 「感謝なんていりません」


 …なるほど、彼がどうして私にこんなに関わろうとしてくるのかは分かりました。

 吊り橋効果のように、辛いときに私と出会った事でより強く好意を持った結果なのでしょう。


 「ミリア、だから今度は僕が君の助けになりたい。つらい事があるなら頼ってくれたら嬉しい」

 「そう」


 そう言うとセドリックは胸近くにあった私の手を自然な動作でとりました。

 触れた手から温もりが伝わり、まだまだ寒い時期でしたので冷やされ氷のように冷たかった私の手を温めてくれました。


 けれど、同時にその温かさが怖かったです。


 彼は生きています。
 彼が温かいことなど知りたくありません。


 これでは彼が死んだ時に私はより罪悪感を感じることになるでしょう。


 やめてください。放してください。







 いっその事、未来の知識なんてなかったら。








 ……………未来の知識がなかったら?




 私は未来を知らなければ、と。何を望んでいるのでしょうか。


 目の前にいるので私の動揺を察したセドリックは私の名前を呼びましたが、私には彼に応える余裕はありませんでした。




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