top of the tower1

 私はホグワーツにある一つの塔の上の窓から外を見下ろしていました。

 この塔はわざわざ登ってくる人も少なく、周りには誰もいませんので考え事をするにはうってつけの場所です。


 第二の課題は無事に原作の通り終わりました。
 セドリックの人質はチョウでした。彼女は人質になるのを受けてくれたようです。


 なぜ、私が選ばれてしまったのかは分かりませんが。セドリックも好意を抱いている彼女が人質の方がやりがいもあったでしょう。


 次の課題で彼は死ぬのです。ならそれまで、少しでも彼が幸せであってほしいと思います。


 私は、原作を変えるつもりはありません。

 正義感の強い方でしたら彼を救おうとするのでしょうが。
 私には無理です。


 もし、これで未来を変えたとして。
 原作と異なり死んだ人がいたらそれは私のせいになります。


 セドリックがポートキーに触れる事なく生きていれば、ヴォルデモートを見たのはハリーだけとなり彼の話の信憑性が薄くなるでしょう。
 そうすればもっとたくさんの死人が出るかもしれません。


 最悪バッドエンドになってしまうかもしれないのです。


 たとえばダンブルドアにゴブレットがポートキーであると伝えるのも1つの手としてあるでしょう。実際に先生方が目撃すれば信憑性もあるかもしれません。

 しかし、それでヴォルデモートの復活を確実に防げるという確証はありません。良い方向に転がってくれるとも限りません。


 結局、原作に沿うのが一番安全です。原作での終わり方はたくさんの死人は出ましたが、それでも殺し合いをしたにしては少ない犠牲でした。


 原作通りに進むのがハッピーエンドなのでしょう。






 ……そう思いますのに、どうして。




 どうして、こんなに怖いのでしょうか?




 この世界に来て。ここがハリー・ポッターの世界だと知り、私は原作を変えないという覚悟がありました。


 ですが人質に選ばれてしまった事で今は何も影響がありませんが、第二の課題では小さく原作からズレてしまいました。


 私は怖いです。


 そんな小さな事と、気にしすぎかもしれませんが。人質に選ばれてしまったことは私に大きな動揺を与えました。

 今まで原作から影響を与えるほどにズレたことは無かったはずです。
 それが人質に選ばれたことで、今まで築いてきたものが意味のないものとなるのではと思うと怖いです。


 いえ…そもそも私が変えないようにしていたことが実はもうどこかで変わっているのでは。だから、私は人質に選ばれてしまったのでしょうか。

 今やっている事は意味のないものなのではないか。そんなことさえ考えてしまいます。呆れるくらいに私は小心者ですね。


 こんな未来にこだわる私の思考を知ったら軽蔑し、蔑む人はたくさんいることでしょう。





 私が手をかけていた窓枠に雨でもないのに水が落ちました。


 その水は私の目から零れたものです。


 …泣いたのはこの世界に来てはじめてかもしれません。


 私は泣いている自分に驚きました。
 涙を止めようと思っているのに止まってくれません。


 「ミリア!」


 涙に戸惑っていますと、背後から私の名前を呼ぶ声が聞こえました。


 私はそちらへ視線を向けると、そこにはセドリックがいらっしゃいました。
 彼は泣いている私を見て驚いた表情をしています。




 …どうして、貴方は会いたくないときに来てしまうのでしょうか。





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