my resolve
そんなことをツラツラと考えていますと、背後で扉の開く音が聞こえたので私は後ろを振り返りました。
するとそこには少しだけ来ないのではないかと思っていましたが。
律儀に来て下さったセドリックが立っていました。
「待たせた……かな?」
セドリックはまっすぐとこちらへ歩いて来ながら、私に小さく微笑んで首を傾げて聞いてきましたので。私はすぐに首を横に振りました。
「いいえ。考え事をするために私は早めに来ていましたので待ってはいません。それに約束の時間よりも早いですし」
セドリックが来たのは約束の時間より数分早かったです。
これから課題を控えている彼は忙しいと予想もできるので。むしろ時間を作っていただいたこちらの方が恐縮するべきところでしょう。
「そう、それなら良かった。けど君が早く来ているなら僕も急げば良かったな」
「セドリックは今日の準備で忙しいのでしょう?私のせいで待たせてしまって時間をとらせるつもりはありません。それに呼び出したのは私ですから」
「今日の課題のことを気にしてくれたんだね。ありがとう。」
「………。私がお呼びしたのですから。お礼を言われる意味が分かりません。それを言うなら私の方が時間を割いて頂いているのでお礼を言わなくてはなりません」
「いや、礼なんていいよ。ミリアに呼ばれた事だけで僕は嬉しいからね」
そうセドリックは優しくおっしゃって下さいました。
私はこれから高い確率で彼の骨を抜くのですが。痛い思いをさせるのが申し訳なくなるので良い人のようなことは止めて欲しいです。
まあ、善人が服を着ているセドリックにそんなことを求めても仕方ありませんか。
本当にやりにくいです。
「ミリア、それで君の用って何かな?」
「はい、今日の課題の事でセドリックにお願いがありお呼びさせていただきました」
「課題のこと?何かな?」
少しだけ困惑の色を浮かべながらもまっすぐと私を見つめて尋ねました。
相変わらず笑顔を崩さないセドリックに話を促され、私は少し言葉に詰まりました。
私としては非常に言いにくいことですが、決意した以上言いましょう。
制服の袖に隠した杖の存在を確かめてから私は口を開きました。
「セドリック、今日の試合を優勝しないで下さい」
私の言葉とともに一瞬、時間が止まったような静寂がこの場を走りました。
セドリックは私の言葉に驚いた顔を作ると、少ししてから途端に眉間にシワを寄せて少し不機嫌そうな顔をしました。
それはダンスパーティへ誘われ私がパートナーを断った時と同じ表情です。
内容が内容ですので快く受けていただけないことは分かっていましたが。やはり断られるでしょうか。
「優勝しないで欲しいってことは。君には優勝させたい人がいるのかな?」
「いいえ。そのような方はいません」
本当のことですので私が間髪入れずに答えますと、セドリックは怪訝そうに端正な眉を寄せました。
「なら何故君がそんなことを望むのか聞いてもいいかい?」
「詳しい理由は言うことはできません。ただ、今日の試合はゴブレットを手に取る事で優勝となります。私は貴方にゴブレットに触れて欲しくないだけです。私が触れて欲しくない理由は、試合が終わった後に私が言わなくとも貴方は分かると思います」
「……なんで今日の試合の内容を知っているのかも教えてくれないの?」
「はい」
私は頷きました。理由は言うべきではないと思ったからです。
試合が終わりハリーが飛ばされれば、セドリックは賢いのでおそらくゴブレットがポートキーであることを私が知っていたと気がつくでしょう。
もしかしたら彼はダンブルドアに私が言ったことを話すかもしれません。そのためにあまりこまかな事をセドリックに話したくないのです。
もし話した場合はそういう夢を見たとか占いで出たとか、状況次第でなんとか言ってとりあえず誤魔化してみるつもりです。
本当ならここまで話したくはなかったですが。交渉するのです。自分の手札を何も見せない訳にはいきません。
最初から骨を抜いてしまえばいいと思うかもしれませんが。やはり良心としてもうまく事が運ぶかも分かりませんし、それは最終手段にしたいのです。
「それはポッターやクラムを勝たせたいからではないのかい?」
「いいえ。私は貴方をゴブレットに触れさせたくないだけで、他の選手などどうなろうが興味はありません」
もしもゴブレットで飛ばされますのがクラムでしたら私は彼をよく知りませんので犠牲にするでしょう。
するとセドリックは何に動揺したのでしょうか。私の答えにセドリックは目を泳がせて動揺を見せました。
「他の選手は興味がない?……ミリア、もしかしてこれは僕のため、なのかな?」
「はい。私がハリー・ポッターや他校のためにこんなことを頼む訳がないではないですか」
「こんなこと?」
「貴方でなければ私は何もせずにただ傍観をするつもりでした。私はセドリック貴方に好感を持っているのでしょう。だから、貴方だからこそ頼み事をしているのです」
私はいつの間にかセドリックを好意的に見ていたのでしょう。だからこそ死んでしまったら悔いとなることが分かってしまいました。
「……僕、だから」
「ええ。貴方だからです」
私の返答にセドリックは少しだけ嬉しそうな表情をしますと、口元に手をやって黙り悩みはじめましたようです。
私としては正直、悩むまでもなく断られると思っていましたので、考えて下さっている様子に表情には出さずに驚きました。
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