Christmas dance party2

 「まさか貴方にこうしてエスコートをして頂けるとは思いませんでした」

 「一応礼儀としてしているだけだ。誘った手前失礼な事はしない」

 「紳士ですね。ありがとうございます、スチュワート」


 そんな軽口を言い、私たちは会場へ向かいました。
 広間へ行く間もスチュワートへの女性の視線が痛かったです。




 クリスマスダンスパーティはダンブルドア校長の挨拶の後、代表選手が初めに踊ることで始まりました。


 セドリックは原作通りチョウと踊っていました。おそらくあの後に誘ったのでしょう。
 ハリー・ポッターよりも先に誘ったようで良かったです。

 私は昔原作を読んだとき、おそらくチョウはハリーのことがずっと好きだったのではないかと思っていました。
 ダンスパーティーにハリーが誘ったときに驚いていたようですし、もしかしたらチョウはすでにハリーには相手がいると思っていたのではないでしょうか。誘うのも遅かったようですし、彼は人気者ですから。


 …もしそうでしたら悲しい話ですが。
 今は原作を守っていただく方が重要ですのでセドリックが誘い、チョウと参加しているようで安心しました。

 私がいることで原作から逸れるのは困ります。




 代表選手のダンスが終わり、一般の生徒が入り混じってのダンスが始まりました。
 会場が様々な色で溢れます。


 「少しくらい踊るか?」

 「そうですね。お願いしてもよろしいですか?」

 「ああ、任せて良い」


 スチュワートが微笑んで差し出す手に、私も笑顔で手を重ねました。こういう時に笑顔を作るのはダンスをする時のマナーです。

 言葉の通り、スチュワートのダンスは完璧でした。まるで本で習ったような正確なダンスでしたので、私は彼に任せきることができました。


 「お上手ですね。練習をなさったのですか?」

 「それは聞かないのがルールだろう。否定はしないが」


 踊りながら聞くと、スチュワートはバツが悪そうに笑って返しました。
 そんな様子はなかったのに、隠れて練習していたのでしょう。






 思っていた以上に長く踊ると私たちは屋外へ出て人気の無い場所のベンチに座りました。

 その際、スチュワートは胸ポケットに入れていたハンカチを敷いたので、元日本人として気恥ずかしく思いましたが有り難く座らせて頂く事にしました。

 私がお礼を言い素直に座ると、スチュワートは飲み物を取ってくるから待っているように言って会場の中へと戻って行きました。

 おそらく喧騒が嫌いな私への気遣いでしょう。
 ここも少しは煩かったですが、人がいない分中ほどではありません。





 「ミリア」


 周りの様子を何も考えずに眺めていると、突然自分の名前を呼ばれて私は思わず肩を揺らしました。

 一瞬だけスチュワートかと思いましたが、すぐに違うと分かりました。


 「・・・・セドリック」


 声のした方をみると、そこにはドレスローブに身を包んだセドリックが1人佇んでいました。

 見た目がスチュワートが性格の悪い王子様だとしたら、セドリックは優しい王子様だとくだらない事を考えます。

 さすが彼は容姿が良いだけありフォーマルな衣装がとても似合います。
 代表選手のダンスの間も女性からの視線を集中して浴びていましたし。
 まあ、普通なら彼を放ってはおかないでしょうね。


 …彼も喧騒から逃れるためにここへ来たのでしょうか。



 「君は今、1人なのかい?」

 「ええ、スチュワートは飲み物を取りに行っています。そういうセドリック、貴方は?」

 「チョウは今友達と話しているから、僕も1人なんだ」

 「そう」


 私の言葉の後になんとなく気まずい沈黙が流れました。


 最後に会った時にセドリックは私に怒っていたので正直、もう私に話しかけてこないかと思っていました。

 実際あれからすれ違っても、彼は私から視線をワザとらしく逸らしていましたし。


 …私は別にそれでも構いませんでしたが。


 「ミリア。そのドレス、とても似合っているよ」

 「ありがとうございます。セドリックも素敵ですよ」


 私はセドリックに微笑んで返しました。嬉しかったからではなく、礼儀としてです。


 そんな事無いですよと言いたくなりますが、英国ではお礼を言うのが礼儀となります。
 逆に否定すると相手を困らせることになりますので文化の違いは面倒くさいです。


 「ありがとう、ミリア。君にそう言ってもらえると嬉しいよ」


 私の言葉にセドリックも笑って返しました。

 以前、嬉しい時の顔を見たことがあるので分かりますが、言葉とは裏腹に彼は喜んではいないようです。
 まあ、お互い形式ばった言葉なので当たり前ですが。

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